第1回「「100年後の未来」の物語を書いてください。」の梗概・実作について、その他いろいろ

 前回、いろいろと意見をいただいたので、梗概をゼロから練り直した。生身の人間と、サイバー空間生まれの知性体との対比が面白い、と言われたので、その対比が生きるような話を考えていている。

 そのために、再び一人でブレインストーミングし、それを原稿用紙3枚分にまとめなおした。まったく違う話になってしまったので(変えてしまっても構わない、ということは小浜氏に確認してある)、実作を見た人が混乱しないように、ここに公開しておく。おおよそこんな具合である。

 外交官のヤアクーブとアルンダティは対峙している。俎上に載せられたのは、パキスタン・インド両国のエネルギー、領土、二酸化炭素排出量などだ。両者の姿は異なる。ヤアクーブは生身の人間だが、アルンダティは電脳世界のネイティヴだ。この違いは、両国の電脳世界に対するイデオロギーの差である。

 交渉のさなか、一度席を立ったヤアクーブは家族のことを思い出す。彼の親族は、かつてパキスタンが電脳化に肯定的だったころに学者だった。しかし、彼らが電脳世界にアップロードされようとした瞬間を狙ったテロで命を奪われた。それ以降、国は電脳化に対して門を閉ざしがちになる。ヤアクーブは、技術には詳しくても、それを一生の仕事にする気にはなれず、外交官となったのだ。

 彼が再びアルンダティと対面した瞬間、激しい爆発が起きた。身を隠していると、彼を導く女性の姿がある。それは、なぜか仮想の存在でしかないはずのアルンダティだった。彼女はぎこちないながらも彼を安全な所へとかくまう。彼女はヤアクーブが電脳世界における最重要人物であり、それゆえに家族もまた命を撃ばれたのだ、と説明する。電脳世界とつながった彼女は、すらすらと述べる。

 だが、二人は政府の人間に拘束される。二人は、高官の前で家族の歴史を示される。それは、彼の両親が極秘に進めていた計画だった。つまり、電脳世界ネイティヴでも、生身の肉体を持てるようにすること。しかし、政府側としてはそれが許せない。生命を使い捨てることになる恐れがあるし、現実世界を支配しているという圧倒的有利さが奪われるからだ。

 アルンダティを差し出せと要求されるが、ヤアクーブはそれをはねつける。たとえ電脳世界にオリジナルが残っていても、家族を失った彼は人を殺すことができなかった。

 銃を向けられるヤアクーブ。しかし、人体を純粋な素材として知覚しているアルンダティは、その能力の限界まで引き出し、高官を人質にして逃げ出すことに成功する。インドに逃げるのかと尋ねたヤアクーブに、アルンダティは首を振る。目指すはバイコヌール宇宙基地だと。安住の地は、かつて中国が放棄した火星基地にしかない、と。

 地元民でいっぱいのバスに揺られ、バックパッカーの振りをしながらようやくたどり着く。宿で過ごすうちに、実在する人間の重みを感じる。そして、間もなく発射するロケットに無理やり乗り込む。

 発射した後に酸素も食料も足りないと気づく。アルンダティは自分を犠牲にするように強要するが、ヤアクーブはそれを頑として認めない。妥協点として、彼女を脳だけにするために、医療室へと向かう。だが、そこで彼は大量の食糧を見つける。そこには、彼の家族からのメッセージがあった。彼は、両親がすべてを電脳世界から見ていてくれたのだと知り、これから、本当に自分が両親の死から自由になったのだと知る。

 

 実作を書くうちに、多少細部は変わってしまったが、おおよそこんな感じだ。ごらんのとおり、ほとんど元の梗概とは共通点がない。これは、物語を駆動させるために、つまり激しい動きを起こすために、政治的に対立している地域で事件が起きることが要請されたからである。少なくとも、引退したイギリス王室の人間が主人公で、舞台が見学者のゲストルームであるよりは、動きが出てくるはずだ。

 とはいえ、慣れないことをやっている感じがあり、少しばかり苦しい。自分が得意とする、というかよくやってきたのは、大体原稿用紙5枚ほど書いてから場面転換、というペースであったのだが、この小説を書いていると大体3枚くらいでどたばたと切り替わっていく。省略した表現も多い。いつものペースと比べてだいぶせわしない印象で、おかげで少しばかりぎこちない。

 それと、これは自分のいつもの悪癖だが、ラストシーンのヴィジョンがあいまいで、書いているうちにようやく着地点がはっきりと見えてくる。この梗概を見ても分かる通り、前半と比べて後半の密度が薄い。何とかしなければならないと思うのだが、こればかりは何度も書いて慣れるしかないだろう。

 こうしてみると、原稿用紙3枚からいきなり50枚に膨らませるのではなく、もう一段階、間に挟んだ方が良かったのでは、とも思えてくる。10枚にしてみるとか。とはいえ、実際に文章を打たないと見えてこない細部というのもあるのも確かで、難しい。

 

 話は変わるが、第2回の梗概も同時に書いている。「読んでいて"あつい"と感じるお話を書いてください」だ。一応アイディアはあるのだが、2回連続で自分の得意としている方向性とは異なるものに手をつけることになる。いい訓練になるとは思うが、それなりに大変だ。

 加えて、第3回「強く正しいヒーロー、あるいはヒロインの物語を書いてください」と続く。できることなら、アクションや熱さとは異なった方法で、強さというものを表現してみたいのだが、さて、どうなることだろう。