「読んでいて"あつい"と感じるお話を書いてください」実作の感想、その1

 実作、前回よりも増えている。なので読み終えられるかどうかちょっと心配だ。

 

■藍銅ツバメ「蛇女の舌の熱さを」

 幻想文学に振り切って大正解だった。たとえばモデルの女性と加齢、妊娠と出産、あるいは田舎の価値観、みたいな話はちょっとありがちかな、とも思ったけれど、短篇ならこのくらいでちょうどいい気もする。なにより、主人公が「緑色の髪をアシンメトリーのショートカットにした女」というのも、幻想文学とはちょっと違う方向性っぽく、視覚的にインパクトがあっていい。

 回想への入り方も自然で、よく書きなれていることがわかる(個人的にはこのテクニックがうまくないのでうらやましい)。

 

■稲田一声「実のところ幽霊は熱い」

 一見すると幽霊が起こす吸熱現象という馬鹿SFなのだが、なぜ幽霊は視覚と聴覚を持つが嗅覚がないのか、みたいな細かいネタまでよく考えられていて面白い。つまり短篇一つをしっかり支えるだけの理屈とそこから派生した枝葉の部分がきっちりと繋がっている。会話の適度な軽さも相まって気軽に読めるが油断ならない。

 ところで、リターナブルボトルって短い間だけも沈むのかな。

 

■宇露倫「SUN-X」

 暑苦しい文体。とても良い。焼けただれ、ずたぼろになっていくのが身体の感覚として伝わってくる。独特の距離感を持つバディものとしても素晴らしい。「擱座」という単語に新しい意味を与えているのもクールだ。前回みたいにしっとりした作品よりも、この人はこういうきびきびしたもののほうがうまいかもしれない。難点としては、やはり字数超過か。

 

■遠野よあけ「アイトチトヒト」

 ほのぼの学園ものと見せかけて、じつは非言語的コミュニケーションしかできない知性とのコンタクトもののように見える。とはいえ、もう一度会いたいからとドローンを落としたりする人工知能の行動原理はちょっとわからない。異質な知性の行動原理がわからないことがカギになっているのだからしょうがないとはいえ、不自然さは否めない。

 

 今回の実作も甲乙つけがたい。第1回と比べて、思わずツッコミを入れずにはいられない設定の問題点という箇所はずっと少ない気がする。個人的には宇露氏の作品が一番好きではあるのだけれど、字数制限を守っているのが稲田氏のみということなので、今回一番得点が入るのはそこなのではないか、と予測している。

 

 以下、その他の実作。

 

■天王丸景虎「熱血機関 -Heat Up Engine-」

 実作間に合わなかったとのこと。

 

■ひろきち「炎情」

 いっぱい笑わせてもらったし、すごく面白かったんだけれど、SFではないのは間違いない。

【追記】コメントがこれだけだとあんまりなので付け加えるけれど、笑わせるのってすごく難しいテクニックで、ずっとすっとぼけた語り口を続けて息切れしないのも見事。というか、リアルで吹いたのはこの作品くらいなので、この方向性でぜひSFを書いてほしい。

 

 以上。