「読んでいて"あつい"と感じるお話を書いてください」実作の感想、その3

 今朝、やたらと早く目が覚めたので近所を走ってはみたのだけれど、やっぱり暑かった。湿気はだいぶましなのだが、夕方と違って走っているうちに気温がぐんぐんと上がっていくので大変にしんどい。

 

■渡邉 清文「テルミドール

 別世界感を感じることができて、いかにもSFらしい。人類が銀河中に広がるクラシックな作風だが、古さはほとんど感じない。短篇SFの醍醐味といえばこれだろう。

 惜しむらくは、意識が発生する時間にとてつもないタイムラグがあることが、イカロスとの会話では特に感じられなかったことだが、これは作者に要求しすぎているかもしれない。でも、今話しているあなたとは、同じ時間を共有できない、みたいなことをもっと前面に出していたら、もっと素晴らしいものになっていたことだろう。

 

■九きゅあ「炎鬼 太陽脱出デスゲーム」

 ラストシーンは割とぞっとしたので好き。主人公が殺人犯だったというのもありがちかもしれないが、設定は生きていると思われた。

 問題点は、彼が幽霊になったところだ。幽霊視点からの描写は不要なのではないかと思う。なぜならば、彼が成仏した後に物語に関わるわけではないので、彼視点から語る必要が感じられないからだ。彼から見た描写が一時的に入ることで、物語の視点が少しぶれてしまうような気がした。

 

■藤田青土「落下する」

 結局イリヤとエリヤを別人とする設定は残されたのだろうか。

 お話が基本的に溶鉱炉で完結していて、外を見に行かないので、最後のアグロの告白が本当かどうかはわからない。梗概では街に出ることが書いてあるが、そうしなかったのはどうしてなのだろう? 文字数的にはまだ余裕があるように思われるが。

 細部としては、鉄が溶ける温度に使える合金の温度計ってあるかもしれないけれど、普通に光の色で調べるほうが多い印象がある。ただ、この辺りの正確な知識がないので、溶鉱炉に詳しい人に教授してほしい。

 関係ないけれど、八月ジャーナリズムのせいで、焼けていく人間の描写と戦争との関係を入れてほしくなってしまった。これはあまり意味のない意見なのでスルーしてください。

 

■泡海陽宇「泡宇宙とセリ鍋と」

 小説というよりも断章というか詩。ただ、切り口は結構いいと思うので、こういう感じの場面をたくさんつないでいけば、多分小説になると思う。

 まずは三つ四つのこうしたのをくっつけて、起承転結を作ることからチャレンジしてほしい。

 

宿禰「ネコの夏と冬」

 キャラクターがしっかりと立っている。地方でゆるゆると生きている宇宙生物はかわいい。現実的には検疫で地球に入れてもらえないだろうけれど。

 主人公が、宇宙生物が分裂することをすっかり忘れていることが少しうかつすぎる気がしないでもないけれど、ありえない話ではない。何年も分裂したところなんて見たことないだろうし。

 

■一徳元就「夕焼けバニーホップ」

 天使の世界と学生の世界のリンクがよくわからなかった。こういうことがやりたいのかな、と推測できなくもないのだけれど、考察するには材料がやや少ないというか、見つけにくい。

 あと、SF読者はバニーホップあたりの話題には詳しくないと思うので、そもそも彼らが何をしているのかがイメージしにくい。フォローを入れるか、まったく入れないのなら天使パートをもっとわかりやすくした方が、読んでもらえると思う。

 

■揚羽はな「コタキナバル熱循環装置」

 前回と同じくしっかりとキャラが立っている。それぞれの属性や性格で容易に区別がつく。

 ただ、これまた前回と同じで、倫理的にこのオチはいいのか、と思わされる。現実で熱波による死傷者が出ているような暑さの中、三大宗教が呼びかけて「我慢しろ」っていうのはちょっとどうなのか。

 いっそのこと完全にドタバタにして、「この年、熱中症による死傷者は何万人を数えた。だが、彼らの尊い犠牲の上にエイリアンは倒された。彼らのことを忘れてはならない」みたいな不謹慎路線にした方がいい気もしてきた。

 不謹慎なのがいけないのではない。むしろ好きだ。ただ、その効果と、意図通りに読んでもらえないことを、よく計算しなければならない。

 

 以上。