「シーンの切れ目に仕掛けのあるSFを書いてください」実作の感想、その2

 淡路島を一周して疲れたので、翌日は二度昼寝をしながらおやつを貪り食った。その結果、体重が微増した。何となく納得がいかない。

 

 以下感想。

 

式「BIG MOTHER IS WATCHING YOU」

 キャラクター小説に見せかけて一気にホラーに落とすことに成功している。確かに長いのだが読んでいて退屈しなかった。欠点をあげるとすれば、ホラーになった途端に予測される通りのラストに向かって一直線、ということだろうか。とはいえ、これは予定調和なのかもしれず、僕はホラーをそれほど読まないのでわからない。

 ところで、このお母さんAIが「あらあら」系のお母さんで、キャラクター的である。だから異常な行動を取っても、どこかキャラクター的な印象を持ってしまう面がある。ヤンデレとかそういうテンプレの枠に収まっている気もする。いわゆる「母性」の怖さを本気で表現するには、もっとキャラクター小説から一般文芸に近づけたほうがいいのかもしれない。だが、そうするとキャラクター小説からホラーへの落差が機能しない気がする。難しいね。

 

岩森 応「朝食/歯磨/落下」

 世界観は魅力的なのだけれど、登場人物の行動原理が途中でぶれている印象だ。

 たとえば紗哉とマリトの関係がまずわからない。たぶん、未来のジェンダー観に由来しているのかな、と思えなくもないのだけれど、そこまで計算している印象はやや薄い。

 紗哉がマリトに激昂するシーンも唐突な気がする。別に今まで淡々としたキャラがキレてもいいんだけれど、キレるまでの積み重ねみたいなのがもう少し欲しいし、できたら彼のどういう地雷を踏んだのかとか、例えば彼が激昂するようになったのは家族を失って以降だとか、なんらかのしっかりした背景が欲しい*1

 家族の遺骨と出会うきっかけも、マリトにむりやりショッピングモール(みたいなところ)に連れていかれるからで、なんというか主人公が主体的に動いた、という印象が薄い感じだ。行き当たりばったり感が少しある。

 

木玉 文亀「The game is over」

 まずアクションシーンが素晴らしい。思わず引き込まれる。この人は多分これを得意技として磨いていくといいんじゃないかって気がする。ラストの、現実に向き合おうとする姿勢もいい。

 ただ、1989年の7日間のループという設定を生かし切れていないうらみがある。このままだと、2019年を舞台にしていてもまったく破綻しない。極端な話、平成の30年間は腐った大人のせいで昭和から一歩も進んじゃいないじゃないか! 畜生!*2 という若者の怒りに全パラメタを振ったほうが良かったのではないかって感じる。

 

黒田 渚「オルタナティヴ・ミミック

 多重人格ものとして面白い。それぞれの登場人物の語り口がしっかり区別されていて、読んでいて混乱することがない。

 問題点を挙げるとすれば、各人格の統合と消滅が謝罪によるということで、なんというか少し教科書的に過ぎる気がする。でも、これって難しいんだよな、って思う。調べて小説を書くと、元の資料から逸脱するのが怖くなるし、特に精神疾患を扱うときには、医学的事実を曲解していないか慎重にならざるを得ない。そうなると、どこかいい子ちゃんな作品になってしまい、野性味が失われがちだ。うーむ。

 

九きゅあ「アニメキャラは辞められない」

 テンプレ*3っぽいアニメの世界から脱出する、みたいなお話。

 どうなんだろう、主人公は元いた世界を脱出して、そのうえ世界を事実上滅ぼしてしまったのだけれど、それにしては切迫感とか罪悪感とかが薄いような……。

 そもそも、著者はこうしたテンプレっぽいアニメに対してどういう態度を取っているのだろう。批判的なのだとしたら、この作品全体の軽さというか、主人公の反省のなさも納得いくのだが、この辺も含めて計算の範疇なのだろうか。

 

 以上。

 おやすみなさい。

*1:クリエイターを志す人っていうのは飄々としているようでいて実は熱い人が多いので、何かにキレるかキレそうになる人は多いと思うのだけれど、こういうエネルギーを作品にぶつけるときには論理的一貫性がないと、唐突に表れた感情に読者が戸惑ってしまう。言い換えると、自分の熱さを直接投入すると作品全体の骨格を不安定にする。

*2:こういうのを「全か無か思考」とか「過度の一般化」とか呼ぶ。

*3:申し訳ない。実はソシャゲをやらないのでガチャとかこの辺の話が全然わからないし、それをベースにしたファンタジーも知識がない。