「長距離を移動し続けるお話を書いてください」実作の感想、その2

 本日は感想交換会に行ってきた。

 今まで、何かと都合のつかないことが多かったのだが、後半戦にしてようやく参加できた。

 感想については後程書くつもりだが、結論から述べると、非常に有意義だった。特に、今後どういう姿勢で書いていけばいいのかについて、指針が得られたように思う。

 

 以下本題。

 

九きゅあ「ダイバーの堕落日和」

 生誕しては滅亡していく宇宙の中を墜落していく、そのヴィジョンは美しい。

 ただ、ターン制で物語が進むってのが直感的にわかる人はどれくらいいるんだろう。たとえば、自分が一ターン分動いたらほかの人も一ターン分動けるって設定。警察官との追いかけっこならともかく、最後の空メールを閲覧・削除することで進んでいくゲームのパートはかなり難解に感じられた。初めて読む小説で、やったことのないゲームがほとんど説明されずにはじまったとしても、そのルールを理解したうえできちんと読む人ってあまりいないんじゃないかなあ。たとえば、ポーカーやブラックジャックだったら、まだ何とかなると思うんだけれど。

 新規で始めるゲームがあるとしたら、ルールを冒頭にすごく簡潔に、まとめて示されないときっと混乱する*1

 

宇露 倫「さくら咲くまで」

 作者の、あちこちを旅したいな、という気持ちが素直に伝わってきて、思わずこちらもどこかに行きたくなる。作者の人柄が感じられて、思わず笑みがこぼれる。

 気になったのは、この作品を単体で楽しむには作中での説明が不足している点。この講座を受講して、過去の作品も読んでいる人だったら、他の作品の設定や人物が出てきたときに読者サービスになると思うんだけれど、ゲスト講師や編集者は、置いてけぼりになっちゃうんじゃないかなあ。この点で評価が辛口になっちゃいそう。

 それに、トレバーはあまり目立っちゃいけないのに、他人のお願いを聞いてしまう人の良さがあって、それが多分彼の良さではあると思うんだけれど、作品のロジックとしては、お腹の子を守るためには何が何でも潜伏しているべきなんじゃないかなって、思われてしまう。

 

藍銅ツバメ「彼らが焦がれ描いた仙境」

 いやあ、今回の話は怖かった。縊鬼って妖怪、怖すぎるでしょ。

 被害者を死に誘う妖怪って、探せばけっこういる気がするんだけれど、この作中の縊鬼がとても魅力的で、これほど優しげな死への誘いってなかなかないんじゃないかな。とりあえず今晩はベルトを遠くに置いて寝ることにします。

 また、美大生の作った作品の描写の簡潔なのに具体的なイメージが浮かんでくるようで、実在のモデルがあるんじゃないかなって思っちゃうところもいい。東京都美術館の作品だったりしませんか。

 で、実は染谷も結構怖い。天狗のことを思い出して、ナチュラルにそういう異界に帰りたい、また会いたい、って素直に独白していて、マジョリティの感覚とはずっと遠いところに行っちゃってる、そこに静かな狂気があって、とてもいい。

 くわばらくわばら。

 

藤田青「アララカンの火」

 話自体はとてもシンプルで、失われた火を再び灯す、という真っ直ぐなプロット。原稿用紙五十枚よりずっと少ないが、シンプルな話だし密度はちょうどいい。

 個人的には、子ザルを放り出してしまう部分の冷酷さが少し唐突だった。確かに、それ以降の描写からすると、彼はおそらくそういうキャラクターなのだな、と理解できるのだが、もう少し前のパートにそうしたことを予感させる部分があってもよかったんじゃなかろうか。

 でも、言語感覚に優れており、無駄なところがないしまった肉を食べている感じだった。だからといって髪切れない筋っぽさがあるわけではなく、どこの部位も肉汁にあふれている。

 

揚羽はな「シエラのオアシス」

 地球よりも一回り大きな天体を一周、まさに課題通りに長距離を移動する話。

 小川一水「Slowlife in Starship」みたいなスーツの描写も良くて、ジュリエットとの距離の近づけたもいい。実は彼女が賭けのことしか考えていないんじゃないかって、高いところから落とす描写も緩急が効いている。おかげで、単調に走り続ける話になることを免れていて、そこが上手い。

 ところで、天体を一周するルートで、一度も大洋を渡らなくていいってのは、地球上ではもちろん無理なんだけれど、惑星シエラは比較的海洋が表面積に占める面積が小さいのだろうか。名前からして山がちなんだろうって思うけれど*2。それなりに大きな海洋が一つでもあると、そこを渡らずに大円を描くのは難しい気もするが。

 それと、ロミオとジュリエットの名前は、やめたほうが良かった。恋人ではなく、ライバルの名前にすることで面白みを狙ったのかもしれないけれど、いくらなんでも使い古された名前だ。シリアスなシーンなんだけど笑っちゃう。これがなかったらもっと締まった短篇になる。

 

 以上。

*1:単に僕がゲームがへたくそなだけな可能性がある。ボドゲ弱いです。

*2:スペイン語で「山」。