■徒然思うこと
こうしてツイッターやブログで受講生の発言を追っていると、みんな結構SF以外の文学・文芸を含めた諸々の芸術一般に触れていることがわかる。それは中国映画だったり、ルネサンス期の絵画・彫刻だったり、最新のJ-POPであったりと、様々なのだけれど、そういう情報が明らかになることは、自分の「◆◆を読んでいるのは自分くらいのものだろう」という傲慢さを打ち砕いてくれるので、たいそうありがたい。
梗概がなかなか選ばれないのも、仕方がないと諦めている。単純に実力が不足しているのだ。うまくなるためにはひたすらに、自分がどれくらい下手なのかを直視する必要がある*1。愚痴を言ってもしょうがない。そもそもここにこんなことを書いても、とも思われる。はい、やめやめ。
で、それとは別に、他の人とどんな本を読んだかを共有したら楽しそうなので、このブログに、2019年の月ごとに一番面白かった本を、短い感想とともに掲載するのはどだろう。こういうのをやってみたい、とふと感じたのだ。別に受講生向けにSlackでやってもいいのだが、来シーズンに受講したいと考えている人がいるかもしれないので、そうした人のことも考えて、ここにオープンにしておきたい。
まあ、そもそも、本当にやるかどうかもわからないのだけれど。やってみたいというだけならタダだ。
以下本題。
■藤田 青「Punk Punk Punk」
洋楽の歴史に関しては無知なので、評価をするのが難しい。
お話としてみると、周囲の人たちが主人公に概して好意的で、もうちょっと与えられる試練を厳しくしてもいいんじゃないか、って感じられた。
それと、これは僕が原典となる映画「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」を観たことがないからだと思うのだけれど、やっぱり結合双生児を出す必然性が、弱く思われた。あと、実作ではアンドロイドだということは明記していないけれど、双子の名前がバリーとトムなのは、彼らの作り手が映画を知っていたことを暗示するし、だから面白い偶然だと言って「ザ・バンバン」と名づけるシーンの意味が弱まってしまう気がする。むしろ、ただの偶然の一致ではなく、作為だということがわかるシーンとして使えるんじゃないか。
■式さん「NO SUMOKING DIMENSION」
果てしなくしょうもない*2。
SFの歴史については詳しくないけれど、該博な知識とこじつけの暴力で、こういうネタを大真面目にやっていた時期というのが確かに存在していたような気はするし、オカルトをジョークとして楽しめる読者は笑いながら謎の感動を覚えるのだけれど、かなり読者を選ぶうえに、わざわざ十の天界を巡るのを事細かに描写したのは、多分「神曲」をなぞることが自己目的化したのではないかとも感じられる。
■武見 倉森「死人のカンカンノウ」
作中の、声の大きいやつがいると、明文化されたルールに乏しいコミュニティが崩壊するってのはその通りで、身に覚えがある。
で、作品の個人的に感じられた問題点は、次の通り。アンドウが自ら死体になって演じたい理由が自分の中ではうまくつながらなかった。そのうえ、改作された「らくだ」を演じる理由もよくわからなかった。なぜ改作したのか、なぜ死んだのか、そこがもっと有機的に繋がったらさらに良くなると思う。たぶん描写がちょっと不足気味なのだ。
ところで、これは古典落語だからいいのかもしれないけれど、「屑屋」ってのは何の注釈もなしに使っても大丈夫な言葉なんだっけ?
■揚羽はな「カタツムリの舟」
梗概段階ではリライトされた「竹取物語」なのだけれど、実作段階で実の娘と養子の娘という二人に分けることで、単純な「竹取物語」のSF版になることを免れている。ただし、もし中性子だけで元の世界に帰れるんだったら、暴力団のトップや新興宗教の教祖になる以上にもっといい方法があるだろう。それに、シンクロトロンの学術的で細かい説明と、中性子を用いて帰還する謎理論との間に、厳密性の落差があるのは確かだ。だが、そこは個性だと思う。ついでに、著者はあまり悪人を出さず、どこか他人のいい人たちばかり出てくるのだが、これも個性なのだろう。善人だけでも、それぞれの正義がぶつかればドラマは作れるし。
で、個人的には、単純な完成度ということで「カタツムリの舟」が金賞、インパクトで「NO SUMOKING DIMENSION」が銀賞、僅差で「Punk Punk Punk」が銅賞であると予想するが、果たしてどうなることやら。
以下自主提出。
■稲田一声「変わったお名前ですね」
梗概段階での、現代の命名に関する法律の抜け穴についてのレポートのような印象からは抜け出すことに成功しているのだが、今度は前世を持ち出してきて、ネタとしてかなり風呂敷が広がった感じだ。
魂の使いまわしというか、別世界の記憶というネタで、もっと壮大な話を広げられるはずなのに、あえて名前を変えたいだけというミニマルなドラマに持って行ったことを、講師陣がどう評価するかどうか。正直わからない。
以上。