2019年度ゲンロンSF創作講座第9回「ファースト・コンタクト(最初の接触)」実作の感想、その1

 

 

  はい。頑張ります。そこまで言ってくれるんだもの。

  実際問題、一日に5作読んで、まあ土日に読めるかどうかはわからないけれど、月曜から水曜までは使えるはずなので、当日には間に合うかな。なんとか。

 

■東京ニトロ「ら・ら・ら・インターネット」

 一息に読んだ。この人は九十年代に小学生として過ごした記憶がはっきり残っているので、今後もこれを武器にしていけばとても強いはず。様々な記憶の細部がよみがえった。

 もちろん、難点もあって、個人のテロリストが小型の核爆弾を持っているっていうリアリティの問題。確かに「虐殺機関」ではサラエボで爆発した核が物語の背景にあるのだけれど、これよりはずっと説得力がある。その理由を考えると、一つはそれがキャラクターの行動原理に深くかかわっているからで、もう一つは世界観の背景として強固に機能しているから。

 物語のテーマが、世界規模の悪意にあらがう小さな子ども、そして子どもが起こす奇跡、なのだけれど、やはり小学校の教室と東京の崩壊にはスケールに差がありすぎて、無理やり結合させている感じは否めない*1。文体をもっと児童文学に寄せてリアリティを少しぼかし、なおかつ奇跡が起きる理由にもう少し説得力を持たせれば、さらによくなる気もする。

 やっぱ超能力と核は属性として強すぎる。パニック映画大好きなら、出したのも納得だけれど。

 

■榛見あきる「無何有の位」

 自分で上げたハードルをやすやすと超えていった。古代インドの伝奇小説なんて読み込む資料多すぎでしょ、一か月じゃ間に合わないんじゃない? って思ってたのに。負けた。西遊記の再解釈も東洋スチームパンクっぽくていい。雰囲気がいい。ブラフマグプタがいきなりゼロの概念を思いつくってのが、ちょっと無理がある気がしないでもないけれど。

 ところで、ツイッターでも言ってたけれど、作中でついた特大の嘘って何だろう? もしも嘘が数論についてでないとしたら、古代インドに株式会社や法人の概念は恐らくなかったってことだろうし*2、あとは猪八戒がしゃべっているのが現代中国語だってことか。

 それと、天使っていう概念の正体がはっきりしない。ある種の共感覚だろうか。あと、天使という概念が、そもそもアブラハムの宗教由来で、アプラサスかガンダルヴァあたりになるんじゃないかなあ。これも作中の嘘かもしれない。

 

■中野 伶理「Di-mensions

 文章のリズムや言葉の選び方が好み。こういう人文系SFは個人的に好き。

 高次元をネタにSFを書くという発想はかなり前からあるし、芸術の観点からもシュールレアリズム以来の伝統がある。だから、今更それをテーマにすると、古く感じてしまうんじゃない? って講師からの指摘を、舞台を過去にすることで乗り越えている。

 完全な成功ではないかもしれない。やっぱり高次元世界の生命体という発想そのものは、SFでは珍しくなくて、古さを全く感じないわけじゃない。けれども、明確に過去の改変を伴わないSFは、歴史改変ものとはまた別の難しさがある。SF要素のある歴史小説として見るのなら、SFマニア受けまではそこまで考えなくてもいいのかも。ターゲットとする読者が違うのだから。

 ところで、何かに憑依されて作品を仕上げるという発想、それこそ自動筆記とか精神分析とかと結びつけたら、もっと面白いものになったかもしれない。余計なお世話ですね。はい。

 

■遠野よあけ「十二所じあみ全集」

 まず、「十二所じあみ」という人名をひねり出した時点で勝っている。実在しない作家というモチーフをSF読者が大好きだってこともよくわかっている。

 しかも、文字が生きているというかなり大胆な発想をしているのだが、それがいかにもありそうな話として感じられる。たぶん作中作や手記の文体にリアリティがあるから、そんな印象を受けるのだろう。

 この人は批評もやっているので、それっぽい文体が書けるし、だからそれによるはったりを利かせるのがうまい。この文体であることないことでっち上げられたらきっと信じちゃう。

 戦前の秘密兵器研究が出てくる必然性って何だろう、って気になりはしたんだけれど、さまざまな文体の使い分けという具体的なテクニックの前には、やっぱりかすんでしまう。この人は、こうした搦手を使いこなし、さらにどの部分がフィクションで、劇中劇をここに挟む必然性は何で、みたいなのをさらに精緻に磨いていったら、かなり強い。

 

金賞予想

 どれもレベルが高くて、もう正直どこかで見たような話を書いてしまった自分としては、今回は点をもぎ取れるとは思っていないのだけど、それはさておいて、金賞に一番近いのは一番難が少ない「Di-mensions」、銀賞が搦手の「十二所じあみ全集」。銅賞は「無何有の位」な気がしているんだけれど、この前は僕が東京ニトロ氏を正当に評価できていなかったことが明らかになったしな、うーん。また外したら笑ってください。

 

 以下自主提出。

 

■稲田一声「きずひとつないせみのぬけがら」

 ドラえもんの道具でこんなのあったよね。

 それはさておき、二次元だったこの世界が改変を受けて三次元になった、みたいなネタをやめたのはよかった。高次元ネタはやっぱりかぶりやすい。

 これは僕が誤読しているのかもしれないけれど、ボーイ・ミーツ・xxxっていうよりも、性同一性障害*3の二人が出会い、自分の「殻」というかクローゼットから抜け出す、っていう物語と重ねられている? だとしたら、単純な「宇宙人がこの世界を創造しました」みたいなオチとは一線を画していて面白い。となると、お父さんの男ならそんなことはしない云々の発言も、古典的ジェンダーの価値観を体現していて、伏線として機能していたのかな。

 とにかくタイトルのイメージが、小学生の夏休みらしくて、とてもいい。

 

 以上。

■追記?

 ワードからコピーしてからこっちに貼り付けたら、なんかフォントが若干違ってしまった。もやもや。

*1:それをつなげるのがインターネットだという話かもしれないが。

*2:ヨーロッパ史に限れば大航海時代にまでしかさかのぼれない。

*3:それか、トランスジェンダー、異性装、そのほかのセクシャルマイノリティのどれに該当するかは作品単体では特定できない。