■近況
昨日はジョギングをした。以前マスクをしながら走ったら相当に息苦しかったので、今回はバンダナを口と鼻の周囲に巻いてみた。これがなかなか悪くない。マスクのように緩んでこないし、適度に息が通る。
ただし、外見が少々怪しいので、バンダナの模様を選ばないと西部劇の銀行強盗みたいになる。このままコンビニに入店したのに別段不振の目を向けられなかったのだが、鏡を見ると相当に怪しい。国が国なら警察沙汰だ。
そういえば眼鏡がゆがんできたので直したいのだが、最寄りの眼鏡屋が閉店している。耐えきれないほど歪んできたらどこか近所で開いていないか探そう。
以下感想。
木玉 文亀「Eyeware」
エコーチェンバー現象に代表されるように、最近の人は見たいものしか見ていないのではないか? という疑問はホットなトピックなので、SFのテーマとしてはいい。
あとは、キャラクターをどうやって魅力的に描くかだろう。現代からの疎外感から情報テロリズムに身を投じるという、あまり明るくないキャラクターの行動原理に説得力をどうやって持たせるかだ。今のままだと、皮肉屋の青年がフェイスブックの雰囲気が気に食わないだから嫌がらせしようとする、みたいな感じなので、例えば情報マスキングによる事故で身内を失ったとか、それくらい強い動機が必要ではないか*1。
それと、読み方によっては読者に「あんたらも家畜だろ?」というメッセージを投げかけている気がしていて、こういう読者に喧嘩売るタイプの作品が僕は大好きなのだが、読者がそれを納得して受け入れられる作品にするのは、難易度が高い。
黒田 渚(タイトル不明)
AI内部にも派閥があるという設定、面白そう。
問題は用語の混乱だろうか。ロボットを動かしているのはAIだよね? 対立するの? みたいな違和感を覚えた。身体を持つ人工知能と持たない人工知能の対立という軸は面白いので、なにか適当な用語をでっちあげれば納得できるのではないか。
ちょっと趣旨がずれるけれども、その対立軸をネットにつないだクラウド型のAIと、ネットから切断して個別に判断するスタンドアローンのAIの群れという対立軸でも書けるかも*2。
それとラスト。人間の少女を拾っておしまいだろうか。むしろ、そこから話が発展するのではないだろうか。人間を滅ぼしてしまったけれど人間にしかできないことがあったので奪い合いになるとか。
AI同士の派閥の対立や格差については多分たくさんあるけれど、たとえばダン・シモンズ「ハイペリオン」シリーズがある。あれはAIが人類との共存を目指すグループと、人類の根絶を目指すグループと、その対立を超えて自分たち以上の究極知性を創造しようとするグループに分かれている。探せばもっとたくさんあるはず。
■九きゅあ「デスブンキ ヌーフのダム」
この人は独特のルールを思いつくのが得意で、こんな発想とても僕にはできないな、といつも思うのだけれど、独自性には同時に分かりにくくなる危険があって、つまり梗概に示されたルールをどうやって読者に伝えるかが課題になる。箇条書きにするとつまらないし、だからと言ってこのルールを発見していく過程を描くのは、レベルが高い。でもチャレンジすると楽しいと思う。
あとは、実在の災害を描くことの難しさかな。べつにテーマにしちゃいけないわけじゃなくて、ただし現実の事件を描くときにはそこで起きたことに対するある種の誠実性が必要になる。誠実という言葉は使われすぎていて安っぽくなっている気もするが、基本的には次の二つだろう。
一つは事実を尊重すること。別に芸術作品なので事実と違うことを書いてもいいのだけれど、それはよく下調べしたうえで変更する必要がある。
もう一つは当事者を重んじること。僕は基本的にどんな表現をしてもいいと思ってはいるのだけれど、例えば災害の関係者が読んで不快になることはしょうがないとしても、自分のつらい経験をだしにして、好き勝手書かれたと思わせてしまうことはしたくない。
■宇露 倫「国桜」
最初の梗概に戻ってきた。
似たような話ではあるのだが、少しずつ焦点が変わってきており、話に奥行きが生まれてきている。例えば命を絶ってしまう親戚だとか、一族の異能のことだとか、そういう設定をうまく梗概に盛り込んでわかりやすいものになっている。
あとは、トレバーが桜子に危険を顧みずに世界を見せてあげたという、合理的ではない判断を入れるとしたら、それに対する説得力ある描写を期待する。たとえば、あまり体の丈夫ではない彼女が病床で常々世界を見て回りたいと必死に訴えていたとか*3、理由が欲しい。
あとは作者自身の感情のコントロールか。クリエイターが自分の経験に近いことを書くときには、過度に感情移入して読者がついてこられなくなるほど自分語りをする危険が、常にある。まあ、今までの作品を読んでいる限り、そんな心配はあまりしていないのだけれど。
それと、石楠をどれくらい嫌な奴に書けるか、光属性の著者にはちょっと期待している。
■藍銅ツバメ「めめ」
神様ではなく仏様なのだけれど、中尊寺の境内にも「めめ」と書かれたのがある峯薬師堂ってのがあって、やっぱり眼病にご利益があるそうだ。
さて、目というのは雄弁に表情を伝えるし、顔の認識で大きなウエイトを占めているからだろう、目に関する怪異はたくさんあって、僕の好きなテーマだ。一つ目小僧と三つ目小僧とか、顔の認識をバグらせる感じがあって、子供のころすごく怖かったのだけれど、今では大好きな妖怪の一つだ。目目連らしい妖怪も出てくるし、そういう目玉系妖怪百鬼夜行になるのが楽しみだ。
豊臣秀吉が重瞳*4であったという説もあり、目に関する伝承は、多くの人を引き付けるのだろう。
李もかわいい。異界からの使者で間違いなく危険な存在なのだけれど、寂しいから人間に危害を与える妖怪が、昔から哀れで好きなのだ。
そうなると、いつまでも妹を守らないといけないので李のところに行けないというのも、妹のおかげでぎりぎり現世にとどまっていられるとも読めるし、シスコンのせいで彼女ができないみたいにも読める。
■中野 伶理「限りない旋律」
わざと病にかかり、悪化する精神と身体の状況の中、ぎりぎりのタイムリミットで最高の作品を生み出す、というモチーフ、マン「ファウストゥス博士」を連想させるので好き。音楽を文章で描写するのは至難の業だが、講座での言葉「人は文章で描写された音楽に感動するのではなく、音楽に感動している人の姿に感動するのだ」ということを胸に頑張ってほしい。
「忘れることのないAIは、郷愁を持つはずもなかった」というくだりもいい。人間とは全く異質の存在なのだ、ということが端的に示されている良い文章。
「リヒトは、ミナに対して恋愛感情を持っていると思っていますが、ミナとオルガが抱くのは興味に留まります。一方で、ミナの視点では三者の感情がさほど変わらない(突き詰めれば傾向性である)ような気がして、思案しております」とのことだけれど、別にどれかと選ぶ必要もないと思う。それぞれの視点を並行して示し、それこそ真相は藪の中、で構わないのではないだろうか。互いの欲望はすれ違っていて、それぞれが独りよがりかもしれないけれども、やっぱり人間にもAIにも、SF読者としては共感してしまうのだ。
以上。