ギリシア文字を見ながら考えた。Ο、Χ、Δがあるのに、□がないのはなんだか惜しい。Πはなんだか近い気がするが、□ではない。
自分はもともと文字が好きである。そこから派生して架空の言語にも興味がある。ときおり、手帳の片隅に読まれたらまずいことをトールキンのエルフ文字でメモしておくくらいには。
本題に戻ると、丸・三角・四角・バツの四種類すべてがそろっている文字を考えるのは意外と難しい。まず、ラテン文字*1だが、これはOとXしかない。キリル文字もОとХだけだ。フォントによってはДが三角らしくなるが、ギリシア文字のΔが元になっているから、当然ではある。
アルファベットから形を借りたチェロキー文字なら□があるのではないか、と思ったがそんなことはなかった。先住民の文字といえば、カナダ先住民文字が有名だし*2、確か△を要素として含んでいたはずでは、と思って調べてみると、△だけであった。記憶がいい加減だった。ならばアフリカのティフナグ文字ならどうか確認すると、〇×△はあるがやはり□がなくて、Πに似た一画足りないのがあるばかりである。
韓国のハングルには、ㅇ、ㅁがある。それぞれ子音なしまたはng、それからmを表すパーツだ。ㅅはsで、フォントによっては△になる*3。さらに今では使われていない、zの音を表していたㅿがある。ハングルはこれらのパーツの組み合わせで文字を構成するので、厳密には〇△□×だけではないのだけれど、要素としては含んでいる。だが、残念ながら×だけがない。ㅏとかㅗとかㅢとか、限りなく惜しいのに。
フォントによってそれらしく見えるものを含めてもいいとするならば、意外なことにカタカナが候補に挙がってくる。つまり、ロを□に、メを×に見立てるのだ。丁寧な楷書を書くよう心掛けている習字の先生なら卒倒しそうだが、これでムを△に見立てればカタカナだけで、〇以外のすべてが見つかる。つまり、もしも句点を含めていいのなら日本語で〇×△□のすべてがそろうことになる。
結論その一。〇×△□のセットの文字は存在する。意外なことにそれはカタカナ。
さて、句読点が反則だというのなら、漢字はどうだろうか。カタカナは漢字に由来するのだから。口は□だし、厶という漢字もある。ほぼ△になっている字体もある。「私」のもととなった字である。㐅もきちんとある。「五」の古字だそうである。乂もフォントによっては十分×に近い。そして、〇もある。これが、アラビア数字のゼロ由来なので納得できない、という人のために、則天文字*4の「星」である、と解釈したい。
結論その二。漢字にも〇×△□が存在する。
とはいえ、漢字だと数が多すぎるので何でもありになる気がする。日常的に使われていない文字も多い。これらが自然な文脈で出てくる文章も考えにくい。そういう意見もあるだろうが、現代普通に使われている文字で、特に表音文字では、〇×△□のすべてが含まれているものを見つけることは、まだできていない。おそらく視認性と書きやすさの問題で、〇と□が共存しにくいのだろう。
現在使われていないものを含めれば、まず思いつくのはフェニキア文字だ。〇、×、そしてほぼ△がある(それぞれアルファベットのO、T、Dの祖先にあたる。△はちょっとはみ出ているが)。惜しいことに、□に一画加えた日のような文字もある(Hの祖先)。一画余計にあるのは、やはり視認性の問題なのだろう。
で、フェニキア文字から派生した文字のどこかに、四種類すべてが含まれているものがあるのではないか。そう思って探していたら、一つあった。イベリア文字である。
イベリア文字は、その名の通りイベリア半島で紀元前五世紀から一世紀の間に用いられていた文字で、面白いことに音素文字と音節文字の混合である。つまり、子音と母音を単独で会わらす文字と、子音+母音を表す文字が混在している、ユニークな文字だ。南東部で用いられていた変種は、〇がE、△がTUまたはDU、□がTEまたはDE*5、×がTAまたはDAである。×は厳密には十だが、もうなんだかこれでも構わないような気がしてきた。実際、当時の文字は今の紙に書くようなものと違って、そこまできれいな形をしていない。〇と□が混在しているのは、音節文字の要素を含んでいて必要な文字の種類が増えたからだろう。
最終的な結論。〇×△□すべてを含む文字体系は実在する。現代用いられているのは条件付きでカタカナ、漢字。古代文字にもイベリア文字という例がある。
おまけ。神代文字は人工的なものであるせいだろうか、〇△□を要素として含む秀真文字の例がある。〇と□が共存している例である。また、架空文字だと趣味性・遊戯性が優先されるので、〇×△□のすべてを含むものは多そうだ。
以上。