「最終課題:第4回ゲンロンSF新人賞【実作】」提出しました

■書き上げた感想

最終実作は、毎月の自主提出で深めていったテーマに正面から取り組むことになった。具体的に深めた内容については、選考委員に向けたアピール文にも書いたので、詳しくはそこに譲る。

その代わり、講座や合評会で指摘されたポイントをどのように修正したかを、ここに記載する。

  • 一番外側の物語が起伏に乏しい
    • 主人公の行動により、周囲の人間関係が大きく変化する形にした
    • ついでに、新型コロナウイルスの感染が拡大している状況でしか書けないものにした
    • 主人公の行動のせいで、回りの反応がどんどん冷淡になっていく、つらいものにした
    • とはいえ、最後にはわずかな光明を見つけさせている
    • 真理に直面することは、救済である
  • 後輩の「平凡」な文章を示してほしい
    • キュレーションサイト風のものを作中で引用した
  • 今までの作品では、親がひそかに支援していたパターンが多いが、それはよろしくない
    • むしろ敵対者として立ちはだかるようにした
  • 安易にいい話にしようとすることに対する照れがある
    • 照れずにまっすぐな話にした
    • 子ども同士のイチャイチャも書いた
    • 大人の恋愛ではないので、妙な駆け引きがなく、不器用な自分でも書けていたらうれしいなあ
  • 因果律が強すぎる、どんでん返しがほしい
    • 現代パートでも、アラビアンナイトパートでも、主人公が不条理な事態にキレて前に進むように変更
    • 読者にとって、より展開の予測を難しくした
  • 三つ目の物語の層に、何らかの機能が欲しい
    • 一つ目のユダヤ人商人の話は、異質な他者との対話、という小説全体を貫くテーマを導入する
    • 二つ目の騎士の話は、悲恋になるはずの物語をハッピーエンドに方向転換させる機能を持つ
      • つまり、イスマーイールの物語をハッピーエンドに変えたい、と一番外側の語り手に決心させる役割を持つ
      • アラビアンナイトパートが変化し、結果として現代パートも軌道修正される
      • 書きながら思いついたことではあったが、うまくつながった感覚はある
    • 小説全体では、他者の理解を望みながらも、どうしてもすれ違ってしまう悲しみを表現
  • 現代パートのキャラクターをもっと強烈に、特に悪友をもっと嫌な奴にしてほしい
    • 後輩女子をいびるキャラに変更
    • 女叩きが激しい点を強調
    • 主人公に対しても牙をむくように修正
  • 悪友に対して言い返してほしい
    • 論理的ではないが、激昂してどなりつけるようにした
  • 後輩の女の子を守る云々が、主人公の独り相撲に感じられる
    • あえて、すべてが彼の独断というか思い込みであったことを強調
    • 彼が女性心理の理解に乏しいという設定として生きたかも
  • 劇中劇はどの程度外の世界の投影か
    • キリスト教徒の女の子が、後輩女子と重なって見える描写を増やした
    • 二人をつなぐキーワードとして、聖母と指輪を用意
  • 現代パートの登場人物の絡みが少ない
    • ストーリーが進むうちに、カタストロフィが起こるように変更
  • 具体的に何をやろうとしているのかがわからない、フィクションの本質をつく?
    • 現実に向き合ったとき、フィクションを書くことは/読むことは、どのような作用を起こすのか、を書いた
    • 遊びとしてのメタフィクションではなく、創作することの意味や、創作する上での倫理を問う
  • 会話が無機的、遊びが少なく、おざなり
    • 会話のぎこちなさは、童話風の文体とすることで、むしろプラスに働くようにした
    • 現代パートについてもできるだけ修正を試みた
    • ただし、どうしても演説調、説明口調にはなってしまった

 

過去の作品から引き継いだのは次の通り。

  • 語り手の自己言及
  • 自分が文章を書いていることに対する自覚的な態度
  • 自己懐疑
  • 児童文学風の文体
  • 理系的な説明を省いた、ブログっぽい文章
  • アクションシーンは表現が画一的・単調・紋切り型になるのでやらない

 

また、書いているうちに、思いがけずに枝葉を伸ばしたのは次の要素だ。

  • 小説家、クリエイターとして問われる倫理
  • 私小説的な要素
    • 学生時代の思い出
      • 一応モデルは特定できないようにいじってある
    • うまくいかない恋愛
      • 作中では幾分強調、戯画化したが……
      • やりすぎたかな?

 

■で、自信のほどは?

あまりない。書く過程そのものを楽しんだ実感はあるが、現実問題として、自分がこの講座でどこまで成長できたかどうかを、講師に評価してもらう、っていう場になると思う。

そもそもこの小説、SF度が限りなく低いし、僕は今まで梗概は一度も選ばれてない。これで万が一ゲンロンSF新人賞取ったら、というか優秀賞をとっても、とんでもない番狂わせだ。

 

■今の気分

提出した直後なので、どの版が最新だったか、最新版をきちんと提出できたか、幾分不安だ。とはいえ、基本的にはやるだけやったので気持ちとしてはかなりすっきりしている。

しばらくの間は、気が高ぶっているので、なんでもいいので文章を書きたくてたまらないだろうが、まずはペースを日常に戻すことを目指す。そして、小説として書きたいテ―マがお腹の中で十分にあたたまってきたら、また筆を執ることにする。120枚を書いたのは久しぶりだし、それに対する評価が戻ってくる前に書いても、また同じ過ちを繰り返すだけだろう。

ならば、のんびりと夜の時間を過ごしたり、日記を書いたり、備忘録をつけたりして、英気を養いたい。

もちろん、他の人の実作も気が向いたときにさっと読み、8月28日(金)の選考会というイベントを、楽しみに待ちたい。

 

以上。