宇部詠一(ubea1)のブログ

ゲンロンSF創作講座をはじめとする物事の覚え書き。

最終課題:ゲンロンSF新人賞【実作】感想、その1、それから初めての金縛り

■近況

 初めて本格的な金縛りを経験した。

 口から白や黄色でまだらになった汚物を吐き出す夢で目を覚ますと*1、耳元で何やら奇怪な音がしている。猛烈な尿意がするが身体が動かず、思考もクリアではない。いわゆる金縛りだな、と意識のはっきりしない頭の中で考えていた。

 興味深い経験だが、自分はとっとと立ち上がって用を足したい。そこで、試みにお経を頭の中で唱えた。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。それから、般若心経も試みた。羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶。少し体が動くようになり、異音が薄れたかと思うと、視覚が真っ白に白熱し、身体が自由になった。お経のエフェクトがやたらかっこいいな、と思いつつ用を足し、眠りについた*2

 そして、朝になって考えたのは、自分はカトリックの学校に六年通ったのに、主の祈りではなかったのだな、ということだった*3

 普通に考えれば、最終実作提出後の緊張が解けて、睡眠リズムがおかしくなったから、ということだろう。検索すると、金縛りのときに「ジャスコ」とか「サイドモヒカンにすっぞ」とか唱えて脱出する人の経験が出てくる。金縛りというのは、脳の一部が寝ており、一部が覚醒している現象らしいので、言語の部分を活性化することで、全部がきちんと目覚めるんじゃないかな、と僕は解釈している。

 どうも、自分はこういう奇怪な現象に遭遇しても、そんなことよりもとっとと寝たいと思ってしまう性分らしい。以前も、夢の中で手首を切断され、汗まみれになって目を覚ましたところで、目の前に手の形が浮かんでいたのを見たことがある。自分でもどういうつもりだったのかわからないが、その浮かんでいる物体に顔を突っ込んでみたところ、消えてしまったので、やっぱり脳がバグっていただけなのだろうな、と思う。

 とはいえ、わざわざ心霊スポットに足を運ぼうとは思わない。まあ、仮に夜中に見たものが幽霊の類だとしても、家にはお札だとかお守りとかがあるので、心強いこと限りなしである。

 以下本題。

 

■方針

 1日に1作品ほど読んで感想を書く。自分の作品を除いて25作品あるので、5作読んだら1つ記事にする。全5回になるはず。そのペースなら。おそらく8月28日(金)には間に合う。最終候補作品選出までに間に合うかはわからない。

 

■天王丸影虎「林檎の贋作」

 4000文字のお話としては過不足がない。自分は、ショートショートを得意としていないので、これをさらに磨き上げる手段は思いつかないのだが、基本的には余計な個所を削り、細部を磨き上げることになるだろう。たとえば、個人的には成田空港でのチャットは必要なく思われたし、サウスパークを引用する理由もわからない。作品全体がサウスパークをテーマにしているわけではないし、アメリカ文化に言及をする理由が薄いからだ*4。そして、短くまとめるには、ジャーナリストと少女の二人の関係の変化だけに焦点を当てるのが適当ではないか。そうすれば、話を長くする原因となる、万能コピー機による社会の変化については、ほとんど触れずに済む。

 問題点としては、人間のコピーという発想はすでに「吉田同名」をはじめとして先行作品がすごくたくさんあるので、この作品でしか示せない感情を表現しないといけないだろう。

 ぜひぜひ、どんどん改稿して、さらに良いものにしていってほしい。短いということは、ブラッシュアップしやすいということだからだ。

 ショートショートは難しい。一切の無駄が許されない。そして、切れ味のある台詞が必要だ。

 

■稲田一声「おねえちゃんのハンマースペース」

 間違いなく「きずひとつないせみのぬけがら」の系譜に属する作品だ。アイデンティティや役割を突き詰めることで、世界全体を書き換えてしまう、かなり思弁的な作品だが、リーダビリティは非常に高い。受講生の作品によっては、短くても読むのが疲れることがあるのだが、本作はそうしたことからは完全に無縁だった。

 ハンマースペースというギャグマンガ時空のものが主題であるも関わらず、それが冗談としてではなく真剣に扱われているが、作品の雰囲気がうまく不条理感を覆い隠し、しんみりとした情感を与えている。要所で金槌や木槌が使われており、それさえもジョークとしてではなく、作品を支える小道具となっている。

 もう一つよくできているな、と思わせられるのが構成で、冒頭と結末の葬儀の描写が見事に呼応している。さらに、本人からしてみると日常だけれど、読者からしてみればそうでもない、という場面の描写の温度感もいい。虐待を受けている子供が事態を平然とそれを受け入れていることや、主人公が同性愛者であることを淡々と自分の一部として物語っているときの、没入感が優れている。

 そして、人間の複製だらけになる、というラストは薄気味の悪さよりもどこかもの悲しさがある。もはや自分の固有性すら保証されず、役割によって定義づけられる、自分が代替可能であるこの世界を、やんわりと風刺したようにも読める。

 そのせいだろうか、技術の細部に対するツッコミを入れようという気にはならなかった。たぶんそれは、論理的だからというよりも*5、抒情的に書いているからなのだと思う。気にするのは野暮だな、と読者に思わせるのに成功しているわけで、このテクニックはぜひ盗んでみたいところだ。

 

■今野あきひろ「受戒」

 今まで一番読みやすい。その理由は恐らく次の通り。自伝的要素、個人的経験の割合が多いため、登場人物の行動原理が比較的想像しやすい。また、登場人物が謎の確信のもとで行動しないため、物語の展開が速すぎない。また、起承転結や因果律が比較的強い。登場人物の行動が原因で、こんな結果になったのだな、というのが、今までの何かを作りたいという衝動にひたすら駆られての作品と比べて、読み取りやすい。

 アピール文によれば。講座受講前は小説を書いたことがなかったとのことで、少し驚いている。というのも、小説を書くための前提条件として、まずはある程度のペースで文章を出力する能力というのが求められているが、この人はそれをクリアできているように思ったからだ。あとは、自分の中の幻想というか、理屈はわからないけれども、このモチーフがどうしても使いたい、みたいな衝動の理由を、言語化できると、今後も改稿していくうえで役立つはずだ。

 というのも、よほどの天才肌でない限り、小説を書くというのはかなり論理的な作業になるためだ。たとえば、棒を押して何かを絞るような道具を物語のモチーフとして使いたくなったのはなぜかを言語化し、読者にはそれがどのような印象を与えるかを計算できていると、より自分の言わんとしたことを深めて表現できるのだと思うが、どうだろうか*6

 そうだ、もう一つ読みやすい理由がある。テーマが比較的一つに縛られているからだ。ここでは、身体を移動する意識、を軸に展開していて、そこを中心に読解すればいい、とわかる。はじめのうちは、とにかく書きたいという意識が強くて、そのあたりの統一が取れていなかったのだ。その勢いを失わず、しかし勢いはコントロールされた状態、というのが望ましい。創作では半ば酔い、半ば醒めている必要がある。

 

■藤 琉「螺旋のどん底

 この講座で大きく成長したメンバーの一人。今まで提出してきた実作の要素が、見事に結実している。それはゆがんだ社会システムに対する抵抗であり、制度化された差別への怒りであり、真の平等を目指すゲリラ的な戦いである。肉食の是非、調査捕鯨の正義もまた問うている。ストーリー展開が今までの作品の中で一番うまいので、最も楽しんで読むことができた。人間が差別を超克するためには、身体を捨てるという、ある意味では人間をやめるという選択しか残されていないのか、という絶望も読み取れるかもしれない*7

 もちろん、原稿用紙120枚にしては要素を詰め込みすぎではないかとか派閥が多すぎるのではないかとか*8*9、もうちょっとラストで主人公に活躍してほしいとか*10、要望はあるのだけれども、今までの中では一番作品そのものをコントロールできていて、そこがとてもよかった。ここでいうコントロールというのは、作者が自分の中にある熱い正義感や義憤にうまく手綱をつけ、小説としての盛り上げどころをきちんと調節で来ているということだ。最初から最後まで、社会問題に対する熱い問題意識で全力ドライブした文章は、評論やブログの記事としてはよくても、あるい程度の長さの小説としては読者を疲れさせてしまう。今作は、ストーリーだけでも読めるのだけれど、けっして背後にある政治的意識をなおざりにはしていない。エネルギーの噴出するべきポイントが、絞られているのだ。盛り上げどころを選んでいる、ともいえる。

 

■甘木 零「開化の空を飛びましょう」

 面白い。そればかりか実力がある、と僕は思う。いわゆる少年の夢として描かれがちな空を飛ぶイメージを、少女のものとして書き換えており、しかもそれは単に性別を入れ替えただけに終わっていない。女性同士の人間関係や感情の揺らぎも丁寧に織り込んでおり、とりあえず主要キャラを女性にしてみました、的な安直さとは無縁だ。地に足のついた、女性の夢物語だ。

 それに、オンラインの講評会で、初稿を見せていただいたのだが、そこで指摘されていた問題点をかなり刈り取っている。アピール文で、一次選考も通過しない、と嘆いてはいらっしゃったが、正直なところ賞のカラーで通ったり通らなかったりするので、それだけで実力が不足しているとは断定できない。個人的経験だが、創元SF短篇賞は通っても、ハヤカワSFコンテストや星新一賞は全滅だった。改稿がきちんとできるというのは実力のあかしだと思う*11

 で、僕はとても好きなのだけれど、この作品が評価されないとしたらどこが問題なのだろう、と僕なりに考えてみた。一つは、説明の部分の多さだろうか。背景の世界観がとてもしっかりしているし、土蜘蛛の正体にもきちんと科学的説明が与えられている。塩分で土蜘蛛が目を覚ます理由についても、授業風景の中できちんと触れられていて、不自然さがない。でも、たぶん科学的事実や歴史的背景の説明が丁寧過ぎて、伏線が緊密すぎるのかもしれない。必然性に縛られすぎている、とでもいうのだろうか。取材したからには使いたい、というのもあるだろう。郷土愛だってあるはずだ。ただ、小説を書く作業は、ある意味では伏線を丁寧に貼っておく知的パズルのような面があるが、それ以外の遊びの個所が、少なすぎると、今度はアイディアを説明する論文になってしまう*12

 もう一つは、語り切れていない物語が多いのも理由かもしれない。ミハルの父や早穂子の婚約者がどんな人物か、もっと知りたいと思われるのだ。この解決法として、長編あるいは連作集とする、というのがあるかもしれない。少なくとも、このお話はほんの少しだけ、長くしたほうがいいと思う。

 あと、連作集がいいと思ったのは、未完のお父さんの話を別の日に読ませていただいたからだ。あれはとても魅力的だった。伏線の厳密性は、未完のあのお話くらいほどで、僕にはちょうどいいと思われた。それに、あちらのほうが空想がもっと奔放で、作者が楽しんでいる感じがあった。

 

 以上。

 

*1:朝からなんてことを……。

*2:罰当たり。

*3:不謹慎。

*4:死んだはずの人間が復活する、という意味では近いかもしれないが、それならもっと適切な作品があると思うし、短い作品の場合、その引用のインパクトが強すぎて、引用元の作品のイメージで作品全体が塗りつぶされてしまう。

*5:作品そのものはかなり論理的だが。

*6:この講座の毎回1か月という締め切りは、自分の考えを深めていくにはかなり厳しい時間制限なのではあるが……

*7:美しい白銀の肉体に乗り換えても、僕らが今のままの精神を持つ限り、差別はなくならないと思うが……。

*8:旧人類とレフターとシジューサと秘密警察と火星人が出てくるが、これだけいっぱいいれば、長編にだって膨らませられるはず。

*9:ちなみに、DNAの二重螺旋の右巻き左巻きは、周囲の物質の濃度によって変わってくるのだけれど、ハードSFというよりは、社会派SFなので、そんな科学的厳密さにこだわるのは野暮な気がする……。

*10:自力で脱出していないので、脱出したあと何か、銀人を逆に助けるシーンがあるとか。でも、このままでも十分面白かった気もする。短篇だったらこんな感じでいいのかな。

*11:この講座の序盤でもそんな話が出ていた。

*12:僕もやりがち……。