ゲンロンSF創作講座目標達成率、作品の傾向の変遷、今後。

■近況、最近眠りが浅い

 今朝も気温のせいか四時に目が覚めてしまった。これからもう一眠りして睡眠時間を確保しようと思う。

 

■目標の達成率

第4回ゲンロンSF講座の個人的な目標 - 宇部詠一(ubea1)のブログ

 そろそろ、同期との合評会である。いい機会なので、ゲンロンSF創作講座受講前に立てた目標をどれだけ達成できているかについて、振り返ることにする。

1.梗概は毎回必ず提出する。○

 毎回提出した。

2.梗概が採用されようがされまいが、作品を作り上げ、提出する(自主課題)。○

 これも毎回提出した。

3.規定文字数は守る。×

 残念ながら、十回中三回、文字数を超過した。

4.自分が苦手としている、論理的な起承転結・きれいな着地点を意識する。△

 完全な成功ではないかもしれないが、少なくとも改善する傾向にはある。ただし、物語の都合で登場人物を動かした例も少なくない。これは、SFのように強く論理的一貫性が要求されるジャンルでやってしまいがちだ。逆に、SF度の低い第七回や最終実作では登場人物の心理に従って物語を進行させやすかった。

5.作品の舞台は、毎回違った場所にする(例:研究所、子どもの秘密基地、レストラン、etc.)。

 南アジア、外宇宙、サイバー空間、植民惑星、フィクション内、中性子星、瀬戸内海、月面、宇宙船内部のシミュレーション空間*1西アジア。一度を除けば、ほぼ別々の舞台を選ぶことができた。

6.軸となる登場人物の関係も、努力目標として異なったものにする(先輩と後輩、上司と部下、兄と妹、etc.)

 準主人公が主人公から見てどういう関係にあるかは、順番に次の通り。

 両親の作った人工知能。実の母。自分のベースとなったオリジナル。疑似姉妹。自分を隷属状態から救いに来た戦士。後ろ暗い関係にある相棒。従兄(枠物語内部では幼馴染)。かつての片思いの相手。憧れの先輩、あるいは妹。かわいい後輩女子、あるいは強烈な個性の同期(枠物語内部では、異国から来た少女)。

 基本的には、別の人間関係を選ぶことができた。途中から、こうした目標を考慮する余裕はなくなってきたが、結果的には別のものになった。しかしながら、後半になるほどアイディアが枯渇し始めたせいか、手癖で書く傾向がでてくる。保護したくなるような年下の女性が出てくるようになるし、相手に対して恋愛感情を持つケースも増えてきた。このあたりが次回からの課題だろう。

7.できたら根拠となる科学理論も別のものを選ぶ(脳科学、惑星物理学、社会学etc.)ほぼ○

 使われた主要な理論、というか学問は次の通り。

 人工知能学、または宗教。宇宙論人工知能学、もしくは倫理学。架空の生物学。創作論。恒星物理学、もしくは物性物理学。日本文学、もしくは歴史学。異星言語学? 人工知能学。歴史学、もしくはメタフィクション*2

 ほぼ別の理論がベースになってはいるが、人工知能やエイリアンなど、異質な生命体をテーマに扱うことが結果的に多かった。また、最初と最後の作品で、奇しくも宗教がテーマの一つとして扱われた。理解するのが難しい他者、というモチーフが根底にあるのかもしれない。

8.一つは梗概で金賞を取る。×

 達成ならず。そもそも梗概が選ばれることもなかった。原稿用紙三枚で、魅力的なお話をプレゼンテーションするのは難しい。ただし、梗概には表れない部分に魅力があるとの評価も同期から受けている。

9.一つは実作で金賞を取る。×

 ただし、梗概が選ばれなかったにもかかわらず、点を取ることには成功した。自分の評価されているポイントはどこかを学ぶことができたので、意味はあった。

10.楽しむ! ◎

 そもそも小説を書いている人と交流するのはものすごく楽しいのだけれど、それ以外のポイントについて。

 自分は講座の前に、すべての実作に目を通して感想を書いた。そして、ゆとりができてからはすべての梗概にも目を通した。こうすることで、講座を十全に楽しむことができた。なぜならば、自分が読んでいない作品について言及されている時間は、手持ち無沙汰になってしまうからだ。それに、講師の批判する点と自分の批判する点がどの程度までかぶっているかを比べるのも楽しかった。自分の作品がまったく言及されない回があっても、それも一つのフィードバックとしてとらえた。

 加えて、他人の作品ではあからさまに見えた欠点が、自分の作品にも実は存在していることに気づけるようになったのも、これも実作を読破したおかげだ。例えば論理の飛躍や、人物の不自然な動機などだ。さらに、コメントを書いているうちに、自分にとっての理想の小説とは何かが明確になっていった。己の創作論がより精密になった、とも言える。

 結果的に、非常に濃密な一年近くの講座であった。つまるところ、自分の資質を明確にするためには、不完全でも小説は結末まで書いたほうがいいのは間違いないし、自分と同じレベルの人の欠点に気づくことは、自分の作品を修正する上で非常に役に立つ。誰も読まない作品だとしても、最後まで書き上げるエネルギーというのは、とても大切だ。

 

■過去の作品のまとめ

 過去の作品について、内容を記憶にある限りで三行ほどに纏める*3。改めて精読したわけではなく、記憶に頼ってはいるが、大まかな傾向を知るには役立つだろう。のちに、実作を改めて読み直して、以下の議論を精密にするかもしれない。

第一回 「100年後の未来」の物語を書いてください

 パキスタン人の外交官が、インドの人工知能に命を救われる。人工知能は、主人公の両親が開発した、現実世界とサイバー世界の関係を大きく変える知識を持っていた。主人公らは最終的に月面へと脱出し、壊れそうな人工知能も直す。実は最初から両親が見守っていた。

第二回 読んでいて“あつい”と感じるお話を書いてください

 宇宙飛行士の娘は、自分が人工的に作られた宇宙にとらわれたことを知る。そこから脱出すると、人工の宇宙を作り出したのは母であったとわかる。母に激昂するも、母は宇宙を救おうとしただけだと知る。母の姿勢に理解を示しながらも、娘は自由になるため外に出る。

第三回 強く正しいヒーロー、あるいはヒロインの物語を書いてください(1点)

 児童ポルノを削除する人工知能が、少女の美を理解させるウイルスに感染する。そのウイルスを作ったのは、女優と人工知能のベースとなった今は亡き人物であった。人工知能は、その美を理解しつつも、倫理のため苦痛のうちに画像を削除しつづけることを選択する。

第四回 何かを育てる物語を書いてください

 王族の姉妹が、意識を持つ植物に恋をする。二人は愛の行為におぼれるが、主人公の姉妹は彼女たちの種族の繁殖方法にまつわる謎を、主人公に先んじて解く。姉妹は意識を失い、新たな命の源となる。主人公は、姉妹の繁殖を補佐する役割を受け入れる。

第五回 シーンの切れ目に仕掛けのあるSFを書いてください

 フィクションの間を移動する能力を持つ主人公は追われていた。そこで、彼を助けようとするように見える二人の人物に出会う。主人公は、元来フィクションを自動的に生み出すシステムの一部であった。戦いの果てに、主人公は自由と自律を手に入れ、自由な旅に出る。

第六回 長距離を移動し続けるお話を書いてください

 主人公と相棒が中性子星に墜落する。そこで生命体と遭遇するが、主人公たちはこの中性子星が間もなくブラックホールにつぶれてしまうことを知る。生命体と協力して脱出するが、すべては相棒の仕組んだことであった。主人公は激高するが、彼とともに高跳びする。

第七回 「取材」してお話を書こう(2点)

 瀬戸内海の実家に帰省した主人公は、従兄から架空の「淡路国風土記」の物語を聞かされる。それは、少年が恋に破れ、仏道に入るまでの物語だった。しかし、それが実は従兄からの片思いを綴ったものだと主人公は気づき、居心地の悪さで実家から逃亡する。

第八回 ファースト・コンタクト(最初の接触

 月面に取材に来たジャーナリストは、そこで科学者になった片想いの相手と、軍人になった同級生に出会う。主人公は両者の立場を調停し、無事エイリアンともコンタクトを取る。最終的には片想いの相手と結ばれるが、最初から最後まで相手の掌の上であった。

第九回 「20世紀までに作られた絵画・美術作品」のうちから一点を選び、文字で描写し、そのシーンをラストとして書いてください(2点)

 シミュレーション世界の中で目覚めた主人公は、あこがれの先輩と恋愛関係になるよう、コンピュータから迫られる。さらに、人間とシミュレーション人格の見分け方を見つけろ、とも。主人公は論理的にコンピュータの故障を明らかにし、その任務から解放する。

第十回 最終実作

 キリスト教徒の少女に片思いしたムスリムの少年が、恋の力で家族の反対を押し切って友情を築く。という物語を綴る語り手は、物語とは裏腹に、かつてかわいがっていた後輩女子に軽蔑され、同期とも縁を切ってしまう。にもかかわらず、彼は小説の力を信じ続ける。

 

■上記から見出される大まかな傾向、反省点

 一か月に五十枚という条件が課されたので、登場人物を絞らざるをえず、余計な描写はどんどんカットしなければならなかった。これはいい傾向だと思う。以前は、同じ話を倍の文字数で書いていた。楽ができるなら楽をしたほうがいい。余談だが、心身の具合が悪い時期には愚痴のような作品を数百枚書いてしまっていたことがあり、自分を癒すという意味では役に立ったのだが、今読み返すと脱線に次ぐ脱線で、思い出深いのだが非常に読みづらい。

 また、ラブストーリーは書くまい、としていたのだが、ゆとりが失われるにつれてついつい恋愛描写を増やしてしまった。これも手癖だが、うまくいかない恋愛、相手に振り向いてもらえない恋愛というパターンが多い。うまくいく描写があっても、そこに説得力が乏しい。それと、恋愛を書くと疲れる。

 だからと言って、自分が普段読んでいないジャンルのアクションを書こうとすると、思い切りコケる。自分はどんなものになじみがあるか、そのジャンルにどのくらい詳しいか、そして何が書けるか、を振り返っておくことは大切だ*4

 とはいえ、うじうじしているだけの話ではなく、少なくとも主人公は行動するようになったし、両親や身内に頼りっぱなしという印象は和らいだはずだ。ここが、大きく治すことができたポイントだと思われる。

 反省点としては他にも、もう少し合評会に参加すべきであった、というのがある。個人的な事情もあり、なかなか都合がつけられなかったのだが、梗概段階でコメントをいただいたときのほうが、圧倒的に評判が良かったのは事実である。

 

■いただいた感想

SF創作講座第12回提出作品|alpaca|note

宇部詠一「愛と友情を失い、異国の物語から慰めを得ようとした語り部の話」感想|松山 徳子|note

 深く読み込んだうえでの、肯定的なコメントをいただけてとても感謝している。だが、ここではあえて批判的な個所からも引用する。

 今野氏のコメント。

梗概を読んだ時には、全体を通して美しいアラビアンナイトデカメロン的な物語の中を、聖母像が縦糸になってひっぱるような印象があったのですが、実作では、むしろ少女からも受け取った人形が小さく後ろに隠れてしまうくらい、作者の失恋を絡めた、思い出語りが全面に出てしまっている印象となっていました。

宇部さん自身は毎回内容を変えて書き続けたと記していましたが、それでも基本的には第一回作品から、その核は同じだったと思います。その最初からあった作品にあった資質自体を変えること無く、ただただ同じ方向へ同じ方法論を磨いて質を高めていったのが最終提出作だと感じました。

 松山氏のコメント

失恋(のようなもの、というのは、失恋相手に対する未練が見えないから)

最後に、タイトルについて。タイトルだけ見ると、いやネタバレし過ぎだよ…!とツッコミを入れてしまう。けれど、読み終わったあとには、ここまで言ってしまってもいいのかもしれないと思った。タイトルで語られるべきは、「僕」が物語を書こうと思ったことと、物語を完結させたいと行動したことだと思う。ただそれでも、もう少しオブラートに包んだ方が魅力が増すと思った。

 書き直すことがあるとすれば、主な修正ポイントはここだろう。特に、失恋と言いながら未練が薄かったのは痛い。とはいえ、どこに手を入れればバランスが崩れないか、考えるのは難しい。六月から七月の気分的を固定したものなので、何を付け加えても雑音になってしまうのではないか、と恐れている。

 

■現状

 実のところかなり疲れており、次の作品を出すだけのエネルギーがたまっていない気がする。それだけのものを、最終実作に込めてしまっている。つたないものではあったが、それ以上を目指すとなると、さらになにを投入すればいいのか、と悩んでしまう。また自分自身の一部を削って作品に投入するのは、非常に体力を必要とする。

 だから、一度書いた作品をリライトしてどこかに出すか、などといったことも考えている。

 しかし、休んでいる間に実力が失われないか、学んだことを忘れないか、不安ではある。

 

 疲れたので以上。

*1:サイバー空間に限りなく近い……

*2:宗教にも触れる

*3:この原稿はWordで下書きをしているので、若干前後する可能性がある

*4:できること、やりたいこと、求められていること、のベン図みたいな感じ。