宇部詠一(ubea1)のブログ

ゲンロンSF創作講座をはじめとする物事の覚え書き。

合評会でいただいた感想

■雑感

 今更のようにどっと疲れが出てきている。最終実作を書き上げ、一息入れてからすぐに他の人の最終実作を読み始めたので、ここまで勢いをつけたまま突っ走ることができた。ところが、実際に読み終えて落ち着いてくると、自分がどれくらいこの講座にエネルギーを費やしてきたかがわかる気がする。とにかく眠くてたまらない。

 

■いただいた感想

 お話をしながらとったメモなので幾分不完全ではあるが、おおよそこのようなお話であった。名は伏せる。

 

 まず、一年間ペースを守り続けてきたのはすごい。さて、最終実作についての感想は次の通り。大体面白いが、小説パートと現実パートのやり取りは、もっとギミックがあってもよかった。というのも、現実と小説が同時に進行しているとわかるのに少し時間がかかったためだ。もっと大胆に、現実パートで振られたら、次の小説パートでイスマーイールが号泣している、くらいやってわかりやすくしてほしい。他に、「なぜこんなことをやっているのだろう」と現実でぼやいた次の節で、小説の中でも「何でこんなことをやっているのだろう」と嘆くようにする、という方法も考えられる。他にも、章立てがされていなかったので、区切ってもよかったかもしれない。

 相互作用については、小説後半のほうがわかりやすかった。とはいえ、「少しは前向きな結末にできただろうか」という問いも不要だと思われる。見ればわかることだからだ。また、地の文章が読者を意識しすぎていて、メタっぽすぎる。明らかに僕らに向けて話しかけており、「申し訳ない」どうこうのくだりも、ブログの文章そのままという体裁である。

 それと、現代的なコロナ禍やスプラッシュマウンテンのあたりも、すぐに古くなってしまう部分なので、最終選考では赤が入るかもしれない。もっと淡々とした創作日記がよい。あまり読者を意識しすぎるのはどうか。

 これはある意味では歴史改変SFなのだと思う。注釈にこの時代にありえないものがどうこうと書いているのだから。そのあたりはもっと露骨でも構わなかったかもしれない。

 

 自分は、前回の梗概段階のときに、作中作パートの中身が面白すぎて、外側が負けるのではないか不安だ、と指摘したのだが、それは杞憂だった。少しも負けておらず、面白い。最初の一文にもおかしみがある。前の方の指摘で気づいたのだが、ブログを読んでいる感覚で読めるし、日常のこともうまく効いている。ブログの普段の語りが生かされている。井場の悲観主義に関するくだりも面白おかしい。それと、作中作の指輪の話は、実は四番目の層だと気づいた*1。面白かった。

 

 ツイッターでは、外側の話がうまく受け付けないと書いてしまった。しっかりした文章で円滑だが、納得がいかない。ただ、これはあくまでも感想レベルの話なので、それくらい人を選ぶ書き出しはあってもいい。あとは、語り手と井場の喧嘩が今一つ。まるでツイッターのつまらないいちゃもんみたいで、紋切り型である*2

 

 自分も立場としてはそれに近い。自分向きではなく苦手。最初のパートで脱落した。個人的なことだが、語り手についてはともかく、書き手の恋愛事情や悩みについては興味が持てない。知らない人から「失恋したんです」と言われても「そうですか……」としか言えない。

 自分は、どちらかといえば海外や過去を舞台とした小説を読むのに苦労するタイプなので、作中作のカリフがどうこうというあたりでまず混乱した。文章の描写からイメージを作るのがあまり得意ではない。怪奇小説なんかだと、化け物が出てくる前にはその前兆があったり、「あの頃は恐ろしい時代だった」といった前振りがあったりするが、この小説にはそれがなかった。

 自分としては、小説にナイーブなものを求めていない。ブログの近況報告も読み飛ばしているから、というのもある。とはいえ、こうしたらいい、というのが思いつけるわけではない。

 友人の描写もきつい。こんなやつとは仲良くなれないと思う。森見登美彦にも悪友キャラは登場するが、彼の場合は単に変な奴であって、どこかかわいらしさがある。

 逆に、この著者のナイーブさで成功しているのは、月面を舞台にした話である。今作みたいに主人公が自ら「こんなことがあって」と語りだすのは苦手。「異セカイ系」ではこういうタイプの語りが用いられているが、それは物語の要請上必要であった。

 

 まずは全体の感想から。自分は今期の中で、作品群を読んでいて一番うらやましかったのは宇部さんだった。というのも、持久力や展開力、それから計画性があって、こういう人が最終選考に残るのだな、と。とにかく毎回手をかけている。梗概が選ばれなかったのは、小ネタが多すぎたせいだろうか。自分ができないことをきちんと手をかけてやっていた。

 ただ、そうした生真面目さが裏目に出ているのだろう、自分を投影したキャラクターをあまり魅力的に書いていないので、もっと開き直ってもいい。森見登美彦村上春樹も、明らかに自分がモデルの人物を、女性からモテるように書いているのに、読者はそこがわざとらしいと批判するよりも、喜んで読んでいる。

 今作では感情を揺さぶられた。それと、ブログで全員の作品の感想を書いてくれて、親切な人だ、と思った。最初はちょっと怖そうな人だと思っていた*3

 

 自分も毎回のコメントには感謝しかない。

 私はこの作品は、挿入されている最後の一文が好きだ。「かすかに見える軌道エレベータが、風に揺れてもいないのにきらきらと輝くのでした」というくだり。ヴィジュアル的にとても美しいので、大森さんのアンテナに引っかかったのではないだろうか。読んでいるうちに、宇部さんはSFを書くのをやめてしまったのだろうか、と思っていたのだが、そんなことはなかった。私の中で、かすかに輝く軌道エレベータ、これがSFなのだ、と感動した。それまではずっと砂漠の茶色いイメージだったのが、青空と白い雲に変わった。そこがとてもきれいで、とてもよかった。

 出だしの自分語りは宇部さん自身だろうか、振られちゃったのね、しょうがないよね、みたいな感じでとても読みやすかった。作中作とリアルとの対応は確かに弱いけれど、ラストで私は評価を180度変えた。

 確かに作中作だけで成り立つのは事実だが……。このパートは誰に向けて書いているのだろう。

 

 自分は宇部さんにめちゃくちゃ感謝していて、同時にライバル意識を持っている。というのも、最初にいただいた実作の評価があまり高くなかったからだ*4。しかし、自分は疑り深いので、一から十まで褒める評価は信じられず、ここがだめと指摘してくれるほうがありがたい。そして、なんとしてでもこの人に面白いと言わせたいと思った。

 この作品は好き。この作品があまり好きではない人と、自分は別の文脈で読んでいる、いわゆる「感傷マゾ」*5で、だからこそ主人公を追い詰める友人の辛辣な言動もいい。情け容赦なく主人公を殴っている。むしろそこがいい。なので全体としてすごく面白い。そして、複雑な枠物語は普通は読みにくいが、これはすっと読めた。

 以下、もったいない点を二つ。一つ目は、主人公をもっとナイーブにしてもよかったこと。これは完全に感傷マゾの方向に持っていくため。「おやすみプンプン」みたいに、何もできずに未練たらたらにしたほうが、評価は二分されるだろうがキャラが立つ。二つ目は主人公の語りと作中作の順序を逆にしたほうが良かった個所があること。「以下、このような意図で書く」と書けば作中作の読み方を誘導できるし、逆のことを言っているときは違和感を与える効果がある。

 

 つかず離れず。作中作ではハッピーエンドだが、現実はビターなのが、安易なハッピーエンドよりもずっといい。軌道エレベータにも視覚的な魅力がある。令和二年六月から七月の描写は風化するだろうが、今しか書けないという意味では面白い。

 

 以前講座のノートをお借りしたが、あの時はとてもありがたかった。ツイッターだけだと言いにくいので、こちらで改めて御礼をさせていただきたい。また、自分としては、言われたことを忘れてしまいがちなので、こうして文章に残してくれているとありがたい。

 さて、この作品は四層あるが、技術に裏打ちされているためか、読みやすかった。また、わざとSFらしさをなくしたのは、軌道エレベータを出すための事前準備だったのだろうか。

 異文化とのファーストコンタクトもSF的なガジェットに立脚していて、ある程度切実さを感じさせた。おそらく、この作品ではいくつもの要素を削っているのだと思う。

 ところで、瑛理ちゃんは少し残酷だな、と思った*6

 

 私は楽しく読んだ。宇部さんが主人公なのだろうか、私小説的だ。中盤の現実パートで考えがリアルタイムに変わっていくのだけれど、これがどうSFになっていくのかな、と思った。私は瑛理ちゃんが好きだ。宇部さんは女性を書くのがうまい*7。彼女のことは嫌いになれなかった。こういう女性がいてもおかしくない。「そんな人もいましたね。すっかり忘れていました」みたいな冷たさもいい。

 

 私は別の場所でこの小説の感想をまとめたのだけれど、軌道エレベータのところで感動した。全体的に好きで、こういう構成をした小説のことをメタフィクションと呼ぶのだな、と思った。多くのメタフィクションにあるように、からかうようだったりテンションが高かったりするのではなく、自己分析を推し進めていくのだが、読後感はいい。メタフィクションが苦手な人でも読める。

 気になったのは瑛理ちゃんで、合わない人に対しても自分はあそこまで強く言わないだろうと思う。きっとあそこまで言ってしまったのは、三人の間でこじれた恋愛感情があったんだろうな、と想像された。そうでなかったら返事はもっと淡々としていたか、何も返事しなかったかするが自然だろう。

 とはいえ、自分の力で物語を変える、登場人物を幸せにする、という宣言は心にすっと入る。こんな風に書いていたんだ、と感動した。

 

↑ あそこまで怒らせたのは、主人公は直接語ってはいないが、非常に不用意なことを口にしてしまったのだと思う。今のままじゃ君はだめだ、みたいな。

 

 ところで、最終選考当日にはある程度準備をしたほうがいい。うまく受け答えできたら逆転できる可能性があるからだ。細かい点は詰めておく。この辺はうまくできなかった、とは言わないほうがいい。

 

■感想をいただいて

 これだけたくさんの肯定的なコメントをいただけて、大変うれしい。また、これだけの意見があると、好みが真っ二つに割れたところもあったが、そこが自分の個性なのだ、と明確にすることができた。書き直すとすれば、作中作と現実パートのリンクを強めることと、どこまで素の自分で書くか、という個所だろう。もっとナイーブにするか、もっとモテるキャラにするかはともかく、私小説的にしすぎると、どこかで限界に突き当たるはずだ。ヒロインが「わたしにも内面がある」*8と主張するパターンを多用するのも考え物だ。当たり前といえば当たり前なのだから。それと、確かに冒頭は幾分冗長で、かなりの部分を削ることができるはずだ。

 一方で、狙いが達成されたと思ったのは、複雑な入れ子構造であるのに読みやすかったということと、最後の軌道エレベータの登場に驚きがあったことだ。特に、多くの方から感動したとおっしゃっていただけたのは、苦労した甲斐があった。

 また、全実作の感想を書いたのを多くの方から感謝していただくことができて、とてもありがたかった。自分の実力を向上するために始めたことだったのだけれど、結果的に他の方からも喜んでいただけたので、本当に良かった。

 いよいよ最終選考まで三週間を切った。それまではあわてず騒がず過ごしていきたく思う。

 

 皆様、ありがとうございます。

 

 以上。

*1:これは元ネタの「デカメロン」がそうなっていたからだ。

*2:個人的には大学生時代の友人なので子ども帰りしているのだと思っている。

*3:これは単純に僕が新しい環境に慣れるのにとても時間がかかるタイプの人間で、無意識に壁を作ってしまうからってのもあると思う……。

*4:これは自分がどこを読みどころか理解していなかったから、というのもあると思う。

*5:やり残した、または存在しない青春の郷愁に浸ることを指す?

*6:これは主人公を追い詰めるために仕方がないところはあった

*7:……!

*8:この表現をしてくださったのはどなただったか……。