■あらすじ
遠い未来の人類の植民した惑星。植物から生まれる人類の王族である姉妹が、意識を持つ植物に恋をする。二人はその植物と愛の行為におぼれる。二人は人類がどうやって繁殖するかを知らされていない。主人公の姉妹はその謎を、主人公に先んじて解く。姉妹は意識を失い、新たな集落の命の源となる。主人公は出し抜かれたことと姉妹の変容にショックを受けるが、姉妹の繁殖を補佐する役割を受け入れる。
■設定
あらすじだけではわかりづらいので補足する。
遠い未来に人類が植民した惑星が舞台。この惑星の人類は男性と女性の区別がない*1。また、この世界の人類を生み出した「母なる」存在は、樹木の姿を取る。この「母なる」樹木(あるいは一本の樹木が大きいので「母なる」森)の下で人類は暮らす。その果実を食べ、枝の下で雨風をしのぐ。ごくまれにその果実から次の世代の森を生み出す種が見つかることがある。
人類はある種の社会性昆虫のような暮らしをしており、その種から生えた新しい樹木と配偶子を交換して繁殖できるのは王族のみ。王族は必ず二人生まれ、特別な果実で育てられる*2。片方が樹木と融合して配偶子を交換し、もう片方はその融合した新しい樹木の守護者となる。
なお、この人類はこの森を広げることを目標としている。ある種のテラフォーミングである。ヒトが自らの身体を使ってテラフォーミングをするというネタはあまり見ない気がする。
なお、ミュルラとはギリシア神話で実の父に恋をして子を授かり、罪の重さから樹木に変じた女性である。ちなみにその息子がアドニスだ。
■自分で読んだ感想
一つの世界観を構成することには成功している一方で、主人公が謎を解くプロセスがぎこちないし、設定が複雑な世界観を一読しただけで分かるだろうか。これは今まで通読してきて感じている課題だ。自分は何かを説明するのは得意だが、それを読んで面白い小説の形にするのはまだうまくない。文章のスタイルそのものは褒められていた記憶がある。
それに、王族には繁殖の方法が知らされず、謎を解いたほうが配偶子として機能するというのも、振り返ってみれば理屈がよくわからない。
性別のない世界を設定した理由はいろいろあるのだけれども、性差のある世界に対しての異議申し立てと言うか違和感というか不満と言うか、そんなものを抱えていたからなのだろう。とはいえ、そのきっかけは単純に自分がモテないからに過ぎない気がしていて、それはちょっと浅いのではないかと思わなくもない*3。
■第三者からの感想
梗概段階では次の通り。
「世界観が面白く、独自性がある。話にも力がある。ただし、人間が樹木から生まれ育つことに何らかの意味づけがほしい。それと、王位を得ることの対価として何を失うのか、が描かれていない。また、王位の生態学的な意味がよくわからない。主人公は何かを育てることでどう変わって行くか、何が大事か。二つのものの間で迷うようにしてほしい。厳しい選択を求められたほうが話としては面白い。梗概はあくまでもプレゼンテーションなので、何が起こったかを具体的に書く必要がある。それは、実作の段階では明示されていなくても構わない。あくまでもプレゼンだからだ。」
ちなみに、トキオ・アマサワ氏からいただいた資料には「皆が木の股から生まれる世界の中で、どうやって王族が誰なのかがわかるのか」「双子の一人が子育てをするのはいいが、もう一人が樹木と一体化することの意味は何か」
実作段階ではほとんど言及がなく「結構面白かった。」とだけ。
一方で繁殖の描写が苦手という意見も。
■まとめ
- 謎解き、情報を得るタイミングに注意*4。
- 別の個所で読んだが、設定は現実世界と一か所違う程度でいい*5。
- 設定を詰めたつもりでも不合理な個所が残りがち。
- それにしても説明が多い。説明だけで気持ちよくなってはいけない。
- 登場人物は最初と最後で何が変わるか。
- 二つの間で迷い、厳しい選択を迫られるほうが面白い。
以上。