ゲンロンSF創作講座実作「君の声は聞こえるけれど、君には僕の声が聞こえない」振り返り

■あらすじ

君の声は聞こえるけれど、君には僕の声が聞こえない | 超・SF作家育成サイト

月面に取材に来たジャーナリストは、そこで科学者になった片想いの相手と、軍人になった同級生に出会う。主人公は片想いの感情に揺れながらも両者の立場を調停する。軍人が主人公に恋をしていたというエピソードを挟みつつ、無事エイリアンともコンタクトを取る。最終的には片想いの相手と結ばれるが、相手のほうが一枚上手であった。

 

■自分で読んだ感想

月面基地のアカデミックな(子どもっぽい?)雰囲気は悪くない。異星人がエウロパ近辺にいるので返事が比較的すぐに戻ってくるというのも設定として便利。ラストで銀河文明からのコンタクト希望リストが見えるのも楽しい。最近小説を書いていないのでこういうアイディア出しの勘が鈍っていそうで怖い。あの時はブレインストーミングで切り抜けていたはず。

さておき登場人物は主人公のみならず皆とてもナイーブ。みんな三十代のはずなのだけれども初恋をひきずっていて感情の起伏も強い。いや、一応ヒロインのほうが一枚上手だとラストで暗示されてはいるけれど、それでも繊細な主人公を受け入れちゃう。

全体的に願望充足的と言うか作者に甘いというか、宇宙人も善意にあふれている優しい世界だ*1

僕は極悪人を描くのは向いていなくて、こういうナイーブな(しばしばとぼけた)若い人間しか書けないのかもしれない。これを欠点とみるか、伸ばしていくべきポイントとみるべきか。

書き直したいポイントはやっぱり初恋の引きずり方で、これは恋愛関係以外の感情でドライブしたほうが良かったのではないかとも思える。どうしても甘ったるくなる。

何であれ自分にしか書けない物、自分の作品でしか味わえない感覚が大事だ。ひけらかし過ぎない、楽しい衒学趣味?

 

■第三者からのコメント

梗概段階だと、ファーストコンタクトよりも恋愛が勝ってしまっているという指摘。また、スケールの大きな返事と、小さな返事が絡み合うのが意外性になっていて、小さい側の留保が開放されて、連鎖して、大きい側の留保が開放される構造も心理的にスリルがあるが、両者のつながりが弱いかも、と。

実作段階では、「枯木伝」では女の子の語りのパートも、いつものような堅苦しさがなくてリーダビリティが高かった。また、ですます調の部分も今までに読んだことのないタイプで新鮮であった。けれども、今回の実作は残念ながらそう印象は受けなかった。物語の内容と文体がミスマッチを起こしていた。こういう話を書くのなら、もっと柔らかい文章で語る必要がある、と。

また、淡々と進めるならもっと叙情的な表現で書くか、「設定」をぶっ飛んだものにした方がいいかも。

さらに、SF的設定は一番よく考えられているが、キャラクター関係で駆動させるにしては、設定にキャラクターが引っ張られ過ぎている(設定説明に引っ張られている)。背景や設定に比して造形が弱い。

 

■まとめ

  • SF的設定はよい。
  • 子どもっぽさ、ナイーブさが出てしまいがち。
  • 青春を引きずりすぎない。
  • 大きい話と小さい話をつなげるときには互いに影響させあうこと*2
  • 優しげな話には、やわらかく抒情的な文体で(文体を工夫しよう!)。
  • 設定をぶっ飛んだものにしてもいい。
  • SFとしてのハードさと文体のやわらかさとの調和。
  • どんな読者を想定している?

 

以上。

*1:「三体」読んだ後だと別の感想が浮かんでくるね。

*2:メインプロットとサブプロットをつなげるときにも大事な考えか。