宇部詠一(ubea1)のブログ

ゲンロンSF創作講座をはじめとする物事の覚え書き。

合評会でいただいた感想

■雑感

 今更のようにどっと疲れが出てきている。最終実作を書き上げ、一息入れてからすぐに他の人の最終実作を読み始めたので、ここまで勢いをつけたまま突っ走ることができた。ところが、実際に読み終えて落ち着いてくると、自分がどれくらいこの講座にエネルギーを費やしてきたかがわかる気がする。とにかく眠くてたまらない。

 

■いただいた感想

 お話をしながらとったメモなので幾分不完全ではあるが、おおよそこのようなお話であった。名は伏せる。

 

 まず、一年間ペースを守り続けてきたのはすごい。さて、最終実作についての感想は次の通り。大体面白いが、小説パートと現実パートのやり取りは、もっとギミックがあってもよかった。というのも、現実と小説が同時に進行しているとわかるのに少し時間がかかったためだ。もっと大胆に、現実パートで振られたら、次の小説パートでイスマーイールが号泣している、くらいやってわかりやすくしてほしい。他に、「なぜこんなことをやっているのだろう」と現実でぼやいた次の節で、小説の中でも「何でこんなことをやっているのだろう」と嘆くようにする、という方法も考えられる。他にも、章立てがされていなかったので、区切ってもよかったかもしれない。

 相互作用については、小説後半のほうがわかりやすかった。とはいえ、「少しは前向きな結末にできただろうか」という問いも不要だと思われる。見ればわかることだからだ。また、地の文章が読者を意識しすぎていて、メタっぽすぎる。明らかに僕らに向けて話しかけており、「申し訳ない」どうこうのくだりも、ブログの文章そのままという体裁である。

 それと、現代的なコロナ禍やスプラッシュマウンテンのあたりも、すぐに古くなってしまう部分なので、最終選考では赤が入るかもしれない。もっと淡々とした創作日記がよい。あまり読者を意識しすぎるのはどうか。

 これはある意味では歴史改変SFなのだと思う。注釈にこの時代にありえないものがどうこうと書いているのだから。そのあたりはもっと露骨でも構わなかったかもしれない。

 

 自分は、前回の梗概段階のときに、作中作パートの中身が面白すぎて、外側が負けるのではないか不安だ、と指摘したのだが、それは杞憂だった。少しも負けておらず、面白い。最初の一文にもおかしみがある。前の方の指摘で気づいたのだが、ブログを読んでいる感覚で読めるし、日常のこともうまく効いている。ブログの普段の語りが生かされている。井場の悲観主義に関するくだりも面白おかしい。それと、作中作の指輪の話は、実は四番目の層だと気づいた*1。面白かった。

 

 ツイッターでは、外側の話がうまく受け付けないと書いてしまった。しっかりした文章で円滑だが、納得がいかない。ただ、これはあくまでも感想レベルの話なので、それくらい人を選ぶ書き出しはあってもいい。あとは、語り手と井場の喧嘩が今一つ。まるでツイッターのつまらないいちゃもんみたいで、紋切り型である*2

 

 自分も立場としてはそれに近い。自分向きではなく苦手。最初のパートで脱落した。個人的なことだが、語り手についてはともかく、書き手の恋愛事情や悩みについては興味が持てない。知らない人から「失恋したんです」と言われても「そうですか……」としか言えない。

 自分は、どちらかといえば海外や過去を舞台とした小説を読むのに苦労するタイプなので、作中作のカリフがどうこうというあたりでまず混乱した。文章の描写からイメージを作るのがあまり得意ではない。怪奇小説なんかだと、化け物が出てくる前にはその前兆があったり、「あの頃は恐ろしい時代だった」といった前振りがあったりするが、この小説にはそれがなかった。

 自分としては、小説にナイーブなものを求めていない。ブログの近況報告も読み飛ばしているから、というのもある。とはいえ、こうしたらいい、というのが思いつけるわけではない。

 友人の描写もきつい。こんなやつとは仲良くなれないと思う。森見登美彦にも悪友キャラは登場するが、彼の場合は単に変な奴であって、どこかかわいらしさがある。

 逆に、この著者のナイーブさで成功しているのは、月面を舞台にした話である。今作みたいに主人公が自ら「こんなことがあって」と語りだすのは苦手。「異セカイ系」ではこういうタイプの語りが用いられているが、それは物語の要請上必要であった。

 

 まずは全体の感想から。自分は今期の中で、作品群を読んでいて一番うらやましかったのは宇部さんだった。というのも、持久力や展開力、それから計画性があって、こういう人が最終選考に残るのだな、と。とにかく毎回手をかけている。梗概が選ばれなかったのは、小ネタが多すぎたせいだろうか。自分ができないことをきちんと手をかけてやっていた。

 ただ、そうした生真面目さが裏目に出ているのだろう、自分を投影したキャラクターをあまり魅力的に書いていないので、もっと開き直ってもいい。森見登美彦村上春樹も、明らかに自分がモデルの人物を、女性からモテるように書いているのに、読者はそこがわざとらしいと批判するよりも、喜んで読んでいる。

 今作では感情を揺さぶられた。それと、ブログで全員の作品の感想を書いてくれて、親切な人だ、と思った。最初はちょっと怖そうな人だと思っていた*3

 

 自分も毎回のコメントには感謝しかない。

 私はこの作品は、挿入されている最後の一文が好きだ。「かすかに見える軌道エレベータが、風に揺れてもいないのにきらきらと輝くのでした」というくだり。ヴィジュアル的にとても美しいので、大森さんのアンテナに引っかかったのではないだろうか。読んでいるうちに、宇部さんはSFを書くのをやめてしまったのだろうか、と思っていたのだが、そんなことはなかった。私の中で、かすかに輝く軌道エレベータ、これがSFなのだ、と感動した。それまではずっと砂漠の茶色いイメージだったのが、青空と白い雲に変わった。そこがとてもきれいで、とてもよかった。

 出だしの自分語りは宇部さん自身だろうか、振られちゃったのね、しょうがないよね、みたいな感じでとても読みやすかった。作中作とリアルとの対応は確かに弱いけれど、ラストで私は評価を180度変えた。

 確かに作中作だけで成り立つのは事実だが……。このパートは誰に向けて書いているのだろう。

 

 自分は宇部さんにめちゃくちゃ感謝していて、同時にライバル意識を持っている。というのも、最初にいただいた実作の評価があまり高くなかったからだ*4。しかし、自分は疑り深いので、一から十まで褒める評価は信じられず、ここがだめと指摘してくれるほうがありがたい。そして、なんとしてでもこの人に面白いと言わせたいと思った。

 この作品は好き。この作品があまり好きではない人と、自分は別の文脈で読んでいる、いわゆる「感傷マゾ」*5で、だからこそ主人公を追い詰める友人の辛辣な言動もいい。情け容赦なく主人公を殴っている。むしろそこがいい。なので全体としてすごく面白い。そして、複雑な枠物語は普通は読みにくいが、これはすっと読めた。

 以下、もったいない点を二つ。一つ目は、主人公をもっとナイーブにしてもよかったこと。これは完全に感傷マゾの方向に持っていくため。「おやすみプンプン」みたいに、何もできずに未練たらたらにしたほうが、評価は二分されるだろうがキャラが立つ。二つ目は主人公の語りと作中作の順序を逆にしたほうが良かった個所があること。「以下、このような意図で書く」と書けば作中作の読み方を誘導できるし、逆のことを言っているときは違和感を与える効果がある。

 

 つかず離れず。作中作ではハッピーエンドだが、現実はビターなのが、安易なハッピーエンドよりもずっといい。軌道エレベータにも視覚的な魅力がある。令和二年六月から七月の描写は風化するだろうが、今しか書けないという意味では面白い。

 

 以前講座のノートをお借りしたが、あの時はとてもありがたかった。ツイッターだけだと言いにくいので、こちらで改めて御礼をさせていただきたい。また、自分としては、言われたことを忘れてしまいがちなので、こうして文章に残してくれているとありがたい。

 さて、この作品は四層あるが、技術に裏打ちされているためか、読みやすかった。また、わざとSFらしさをなくしたのは、軌道エレベータを出すための事前準備だったのだろうか。

 異文化とのファーストコンタクトもSF的なガジェットに立脚していて、ある程度切実さを感じさせた。おそらく、この作品ではいくつもの要素を削っているのだと思う。

 ところで、瑛理ちゃんは少し残酷だな、と思った*6

 

 私は楽しく読んだ。宇部さんが主人公なのだろうか、私小説的だ。中盤の現実パートで考えがリアルタイムに変わっていくのだけれど、これがどうSFになっていくのかな、と思った。私は瑛理ちゃんが好きだ。宇部さんは女性を書くのがうまい*7。彼女のことは嫌いになれなかった。こういう女性がいてもおかしくない。「そんな人もいましたね。すっかり忘れていました」みたいな冷たさもいい。

 

 私は別の場所でこの小説の感想をまとめたのだけれど、軌道エレベータのところで感動した。全体的に好きで、こういう構成をした小説のことをメタフィクションと呼ぶのだな、と思った。多くのメタフィクションにあるように、からかうようだったりテンションが高かったりするのではなく、自己分析を推し進めていくのだが、読後感はいい。メタフィクションが苦手な人でも読める。

 気になったのは瑛理ちゃんで、合わない人に対しても自分はあそこまで強く言わないだろうと思う。きっとあそこまで言ってしまったのは、三人の間でこじれた恋愛感情があったんだろうな、と想像された。そうでなかったら返事はもっと淡々としていたか、何も返事しなかったかするが自然だろう。

 とはいえ、自分の力で物語を変える、登場人物を幸せにする、という宣言は心にすっと入る。こんな風に書いていたんだ、と感動した。

 

↑ あそこまで怒らせたのは、主人公は直接語ってはいないが、非常に不用意なことを口にしてしまったのだと思う。今のままじゃ君はだめだ、みたいな。

 

 ところで、最終選考当日にはある程度準備をしたほうがいい。うまく受け答えできたら逆転できる可能性があるからだ。細かい点は詰めておく。この辺はうまくできなかった、とは言わないほうがいい。

 

■感想をいただいて

 これだけたくさんの肯定的なコメントをいただけて、大変うれしい。また、これだけの意見があると、好みが真っ二つに割れたところもあったが、そこが自分の個性なのだ、と明確にすることができた。書き直すとすれば、作中作と現実パートのリンクを強めることと、どこまで素の自分で書くか、という個所だろう。もっとナイーブにするか、もっとモテるキャラにするかはともかく、私小説的にしすぎると、どこかで限界に突き当たるはずだ。ヒロインが「わたしにも内面がある」*8と主張するパターンを多用するのも考え物だ。当たり前といえば当たり前なのだから。それと、確かに冒頭は幾分冗長で、かなりの部分を削ることができるはずだ。

 一方で、狙いが達成されたと思ったのは、複雑な入れ子構造であるのに読みやすかったということと、最後の軌道エレベータの登場に驚きがあったことだ。特に、多くの方から感動したとおっしゃっていただけたのは、苦労した甲斐があった。

 また、全実作の感想を書いたのを多くの方から感謝していただくことができて、とてもありがたかった。自分の実力を向上するために始めたことだったのだけれど、結果的に他の方からも喜んでいただけたので、本当に良かった。

 いよいよ最終選考まで三週間を切った。それまではあわてず騒がず過ごしていきたく思う。

 

 皆様、ありがとうございます。

 

 以上。

*1:これは元ネタの「デカメロン」がそうなっていたからだ。

*2:個人的には大学生時代の友人なので子ども帰りしているのだと思っている。

*3:これは単純に僕が新しい環境に慣れるのにとても時間がかかるタイプの人間で、無意識に壁を作ってしまうからってのもあると思う……。

*4:これは自分がどこを読みどころか理解していなかったから、というのもあると思う。

*5:やり残した、または存在しない青春の郷愁に浸ることを指す?

*6:これは主人公を追い詰めるために仕方がないところはあった

*7:……!

*8:この表現をしてくださったのはどなただったか……。

ゲンロンSF創作講座目標達成率、作品の傾向の変遷、今後。

■近況、最近眠りが浅い

 今朝も気温のせいか四時に目が覚めてしまった。これからもう一眠りして睡眠時間を確保しようと思う。

 

■目標の達成率

第4回ゲンロンSF講座の個人的な目標 - 宇部詠一(ubea1)のブログ

 そろそろ、同期との合評会である。いい機会なので、ゲンロンSF創作講座受講前に立てた目標をどれだけ達成できているかについて、振り返ることにする。

1.梗概は毎回必ず提出する。○

 毎回提出した。

2.梗概が採用されようがされまいが、作品を作り上げ、提出する(自主課題)。○

 これも毎回提出した。

3.規定文字数は守る。×

 残念ながら、十回中三回、文字数を超過した。

4.自分が苦手としている、論理的な起承転結・きれいな着地点を意識する。△

 完全な成功ではないかもしれないが、少なくとも改善する傾向にはある。ただし、物語の都合で登場人物を動かした例も少なくない。これは、SFのように強く論理的一貫性が要求されるジャンルでやってしまいがちだ。逆に、SF度の低い第七回や最終実作では登場人物の心理に従って物語を進行させやすかった。

5.作品の舞台は、毎回違った場所にする(例:研究所、子どもの秘密基地、レストラン、etc.)。

 南アジア、外宇宙、サイバー空間、植民惑星、フィクション内、中性子星、瀬戸内海、月面、宇宙船内部のシミュレーション空間*1西アジア。一度を除けば、ほぼ別々の舞台を選ぶことができた。

6.軸となる登場人物の関係も、努力目標として異なったものにする(先輩と後輩、上司と部下、兄と妹、etc.)

 準主人公が主人公から見てどういう関係にあるかは、順番に次の通り。

 両親の作った人工知能。実の母。自分のベースとなったオリジナル。疑似姉妹。自分を隷属状態から救いに来た戦士。後ろ暗い関係にある相棒。従兄(枠物語内部では幼馴染)。かつての片思いの相手。憧れの先輩、あるいは妹。かわいい後輩女子、あるいは強烈な個性の同期(枠物語内部では、異国から来た少女)。

 基本的には、別の人間関係を選ぶことができた。途中から、こうした目標を考慮する余裕はなくなってきたが、結果的には別のものになった。しかしながら、後半になるほどアイディアが枯渇し始めたせいか、手癖で書く傾向がでてくる。保護したくなるような年下の女性が出てくるようになるし、相手に対して恋愛感情を持つケースも増えてきた。このあたりが次回からの課題だろう。

7.できたら根拠となる科学理論も別のものを選ぶ(脳科学、惑星物理学、社会学etc.)ほぼ○

 使われた主要な理論、というか学問は次の通り。

 人工知能学、または宗教。宇宙論人工知能学、もしくは倫理学。架空の生物学。創作論。恒星物理学、もしくは物性物理学。日本文学、もしくは歴史学。異星言語学? 人工知能学。歴史学、もしくはメタフィクション*2

 ほぼ別の理論がベースになってはいるが、人工知能やエイリアンなど、異質な生命体をテーマに扱うことが結果的に多かった。また、最初と最後の作品で、奇しくも宗教がテーマの一つとして扱われた。理解するのが難しい他者、というモチーフが根底にあるのかもしれない。

8.一つは梗概で金賞を取る。×

 達成ならず。そもそも梗概が選ばれることもなかった。原稿用紙三枚で、魅力的なお話をプレゼンテーションするのは難しい。ただし、梗概には表れない部分に魅力があるとの評価も同期から受けている。

9.一つは実作で金賞を取る。×

 ただし、梗概が選ばれなかったにもかかわらず、点を取ることには成功した。自分の評価されているポイントはどこかを学ぶことができたので、意味はあった。

10.楽しむ! ◎

 そもそも小説を書いている人と交流するのはものすごく楽しいのだけれど、それ以外のポイントについて。

 自分は講座の前に、すべての実作に目を通して感想を書いた。そして、ゆとりができてからはすべての梗概にも目を通した。こうすることで、講座を十全に楽しむことができた。なぜならば、自分が読んでいない作品について言及されている時間は、手持ち無沙汰になってしまうからだ。それに、講師の批判する点と自分の批判する点がどの程度までかぶっているかを比べるのも楽しかった。自分の作品がまったく言及されない回があっても、それも一つのフィードバックとしてとらえた。

 加えて、他人の作品ではあからさまに見えた欠点が、自分の作品にも実は存在していることに気づけるようになったのも、これも実作を読破したおかげだ。例えば論理の飛躍や、人物の不自然な動機などだ。さらに、コメントを書いているうちに、自分にとっての理想の小説とは何かが明確になっていった。己の創作論がより精密になった、とも言える。

 結果的に、非常に濃密な一年近くの講座であった。つまるところ、自分の資質を明確にするためには、不完全でも小説は結末まで書いたほうがいいのは間違いないし、自分と同じレベルの人の欠点に気づくことは、自分の作品を修正する上で非常に役に立つ。誰も読まない作品だとしても、最後まで書き上げるエネルギーというのは、とても大切だ。

 

■過去の作品のまとめ

 過去の作品について、内容を記憶にある限りで三行ほどに纏める*3。改めて精読したわけではなく、記憶に頼ってはいるが、大まかな傾向を知るには役立つだろう。のちに、実作を改めて読み直して、以下の議論を精密にするかもしれない。

第一回 「100年後の未来」の物語を書いてください

 パキスタン人の外交官が、インドの人工知能に命を救われる。人工知能は、主人公の両親が開発した、現実世界とサイバー世界の関係を大きく変える知識を持っていた。主人公らは最終的に月面へと脱出し、壊れそうな人工知能も直す。実は最初から両親が見守っていた。

第二回 読んでいて“あつい”と感じるお話を書いてください

 宇宙飛行士の娘は、自分が人工的に作られた宇宙にとらわれたことを知る。そこから脱出すると、人工の宇宙を作り出したのは母であったとわかる。母に激昂するも、母は宇宙を救おうとしただけだと知る。母の姿勢に理解を示しながらも、娘は自由になるため外に出る。

第三回 強く正しいヒーロー、あるいはヒロインの物語を書いてください(1点)

 児童ポルノを削除する人工知能が、少女の美を理解させるウイルスに感染する。そのウイルスを作ったのは、女優と人工知能のベースとなった今は亡き人物であった。人工知能は、その美を理解しつつも、倫理のため苦痛のうちに画像を削除しつづけることを選択する。

第四回 何かを育てる物語を書いてください

 王族の姉妹が、意識を持つ植物に恋をする。二人は愛の行為におぼれるが、主人公の姉妹は彼女たちの種族の繁殖方法にまつわる謎を、主人公に先んじて解く。姉妹は意識を失い、新たな命の源となる。主人公は、姉妹の繁殖を補佐する役割を受け入れる。

第五回 シーンの切れ目に仕掛けのあるSFを書いてください

 フィクションの間を移動する能力を持つ主人公は追われていた。そこで、彼を助けようとするように見える二人の人物に出会う。主人公は、元来フィクションを自動的に生み出すシステムの一部であった。戦いの果てに、主人公は自由と自律を手に入れ、自由な旅に出る。

第六回 長距離を移動し続けるお話を書いてください

 主人公と相棒が中性子星に墜落する。そこで生命体と遭遇するが、主人公たちはこの中性子星が間もなくブラックホールにつぶれてしまうことを知る。生命体と協力して脱出するが、すべては相棒の仕組んだことであった。主人公は激高するが、彼とともに高跳びする。

第七回 「取材」してお話を書こう(2点)

 瀬戸内海の実家に帰省した主人公は、従兄から架空の「淡路国風土記」の物語を聞かされる。それは、少年が恋に破れ、仏道に入るまでの物語だった。しかし、それが実は従兄からの片思いを綴ったものだと主人公は気づき、居心地の悪さで実家から逃亡する。

第八回 ファースト・コンタクト(最初の接触

 月面に取材に来たジャーナリストは、そこで科学者になった片想いの相手と、軍人になった同級生に出会う。主人公は両者の立場を調停し、無事エイリアンともコンタクトを取る。最終的には片想いの相手と結ばれるが、最初から最後まで相手の掌の上であった。

第九回 「20世紀までに作られた絵画・美術作品」のうちから一点を選び、文字で描写し、そのシーンをラストとして書いてください(2点)

 シミュレーション世界の中で目覚めた主人公は、あこがれの先輩と恋愛関係になるよう、コンピュータから迫られる。さらに、人間とシミュレーション人格の見分け方を見つけろ、とも。主人公は論理的にコンピュータの故障を明らかにし、その任務から解放する。

第十回 最終実作

 キリスト教徒の少女に片思いしたムスリムの少年が、恋の力で家族の反対を押し切って友情を築く。という物語を綴る語り手は、物語とは裏腹に、かつてかわいがっていた後輩女子に軽蔑され、同期とも縁を切ってしまう。にもかかわらず、彼は小説の力を信じ続ける。

 

■上記から見出される大まかな傾向、反省点

 一か月に五十枚という条件が課されたので、登場人物を絞らざるをえず、余計な描写はどんどんカットしなければならなかった。これはいい傾向だと思う。以前は、同じ話を倍の文字数で書いていた。楽ができるなら楽をしたほうがいい。余談だが、心身の具合が悪い時期には愚痴のような作品を数百枚書いてしまっていたことがあり、自分を癒すという意味では役に立ったのだが、今読み返すと脱線に次ぐ脱線で、思い出深いのだが非常に読みづらい。

 また、ラブストーリーは書くまい、としていたのだが、ゆとりが失われるにつれてついつい恋愛描写を増やしてしまった。これも手癖だが、うまくいかない恋愛、相手に振り向いてもらえない恋愛というパターンが多い。うまくいく描写があっても、そこに説得力が乏しい。それと、恋愛を書くと疲れる。

 だからと言って、自分が普段読んでいないジャンルのアクションを書こうとすると、思い切りコケる。自分はどんなものになじみがあるか、そのジャンルにどのくらい詳しいか、そして何が書けるか、を振り返っておくことは大切だ*4

 とはいえ、うじうじしているだけの話ではなく、少なくとも主人公は行動するようになったし、両親や身内に頼りっぱなしという印象は和らいだはずだ。ここが、大きく治すことができたポイントだと思われる。

 反省点としては他にも、もう少し合評会に参加すべきであった、というのがある。個人的な事情もあり、なかなか都合がつけられなかったのだが、梗概段階でコメントをいただいたときのほうが、圧倒的に評判が良かったのは事実である。

 

■いただいた感想

SF創作講座第12回提出作品|alpaca|note

宇部詠一「愛と友情を失い、異国の物語から慰めを得ようとした語り部の話」感想|松山 徳子|note

 深く読み込んだうえでの、肯定的なコメントをいただけてとても感謝している。だが、ここではあえて批判的な個所からも引用する。

 今野氏のコメント。

梗概を読んだ時には、全体を通して美しいアラビアンナイトデカメロン的な物語の中を、聖母像が縦糸になってひっぱるような印象があったのですが、実作では、むしろ少女からも受け取った人形が小さく後ろに隠れてしまうくらい、作者の失恋を絡めた、思い出語りが全面に出てしまっている印象となっていました。

宇部さん自身は毎回内容を変えて書き続けたと記していましたが、それでも基本的には第一回作品から、その核は同じだったと思います。その最初からあった作品にあった資質自体を変えること無く、ただただ同じ方向へ同じ方法論を磨いて質を高めていったのが最終提出作だと感じました。

 松山氏のコメント

失恋(のようなもの、というのは、失恋相手に対する未練が見えないから)

最後に、タイトルについて。タイトルだけ見ると、いやネタバレし過ぎだよ…!とツッコミを入れてしまう。けれど、読み終わったあとには、ここまで言ってしまってもいいのかもしれないと思った。タイトルで語られるべきは、「僕」が物語を書こうと思ったことと、物語を完結させたいと行動したことだと思う。ただそれでも、もう少しオブラートに包んだ方が魅力が増すと思った。

 書き直すことがあるとすれば、主な修正ポイントはここだろう。特に、失恋と言いながら未練が薄かったのは痛い。とはいえ、どこに手を入れればバランスが崩れないか、考えるのは難しい。六月から七月の気分的を固定したものなので、何を付け加えても雑音になってしまうのではないか、と恐れている。

 

■現状

 実のところかなり疲れており、次の作品を出すだけのエネルギーがたまっていない気がする。それだけのものを、最終実作に込めてしまっている。つたないものではあったが、それ以上を目指すとなると、さらになにを投入すればいいのか、と悩んでしまう。また自分自身の一部を削って作品に投入するのは、非常に体力を必要とする。

 だから、一度書いた作品をリライトしてどこかに出すか、などといったことも考えている。

 しかし、休んでいる間に実力が失われないか、学んだことを忘れないか、不安ではある。

 

 疲れたので以上。

*1:サイバー空間に限りなく近い……

*2:宗教にも触れる

*3:この原稿はWordで下書きをしているので、若干前後する可能性がある

*4:できること、やりたいこと、求められていること、のベン図みたいな感じ。

最終課題:ゲンロンSF新人賞【実作】感想、その5

■いただいた感想

 ありがとうございます。

 良くも悪くも老獪な人物は書けず、どこかお人よしな善人か鈍感な凡人になってしまうの、きっと資質なんだと思う。

 

 以下感想。

 

宿禰「粘菌の原」

 しっかりまとまっている。一読しただけでこれが何の話かがよく分かる。これはプラスとマイナスの両方があって、プラスの面としては読者がどのように読めばいいのかがよくわかる点だ。マイナスの面は既視感が強くて、現代に書かれる必然性が弱いこと。確かに、現代的な面を出そうとして、黒人差別らしいものを取り込もうとしているのだが、個人的にはうまくいっていないように思う。

 うまくいっていない理由の一つは、この要素がないほうが、物語がスムーズに進むと思われることだ。二つ目は、そもそも地球から離れた共同体で、色が薄いほうが美しいとされる価値観がそのまま安易に継承されるかどうかはわからず、幾分不自然であるということ。地球の文化をそのまま無批判に持ち出したからかもしれないが、この時代にあって何の配慮もなく生のデータを再生させることはないんじゃなかろうか*1。それに、ママに何か含むところがない限り、なんとしてでも差別の再生産の発生を防ごうとするはずではないだろうか。そして、第三の理由は、そこで描かれる黒人差別があからさまに過ぎるということ。

「いや、人種差別は根深い問題で、三十年前と状況は変わっていないのだ」という意見もあるだろうが、今のアメリカで起きているのは「アフリカ系をはじめとしたマイノリティの社会的地位が向上した人がこれだけたくさんいるのに、まだこんなに差別が残っている」みたいな側面もあり*2、事態がさらに複雑になっている。単純に三十年前と同じような状況を書いても、現代の人に訴えかけるところは、少ないのではないだろうか。

 そういえばなんで女性だけの共同体になったのだろう、それもよくわからない。それに、誘惑者の男性が、まるで性的な欲求のみから動いていたようにも見えて、こいつはスパイとしてどうなのか、みたいなところも気になった。

 作者の生物学SFっぽい雰囲気は結構好きだ。問題は、生物学を人間*3に当てはめるときは、歴史的な経緯から幾分配慮が必要だということだ。この辺の価値観、十年もすればどんどん変わってしまう。

 

■松山 徳子「手紙」

 好きな方向性。だからこそ、とても残念に思っているのが、天国の消滅をクライマックスではなく、冒頭にもってきてしまったことだ。結末近くに、今まで頼りにしてきたつぼみちゃんがいなくなってしまったら確実に盛り上がったことだろう。確かに、天国の消滅後、人々が悩みを抱えた世界を舞台にした作品も魅力的ではあるけれど、ノゾミが天国に行かないことを選んだあとで、天国が消えてしまう出来事が起きるほうが、ノゾミはこれを予感していたのだろうか、みたいな葛藤が起きて、少なくとも感情の起伏の大きな話にできると思う。それに、つぼみちゃんがいなくなって苦しんでいるヤエが、周りの大人を励ますようになる過程を描けば、主人公の成長を描くという意味で、ずっといいものになるんじゃないだろうか。

 冒頭の説明もちょっと長いかも。SF読者ならもっと短くても設定を悟ってくれる*4。でも、この作品にはすごく好きなところがあって、等号をトンネルにたとえたところ。すごく魅力的な比喩だから、この比喩を最初から最後まで通して、何かに迷ったときにはトンネルの中にいるようだ、という感覚であることを描写したらどうだろう。きっとノゾミだったらこの答えはわかるのに、どうしてここにあなたはいないの、的な感じで。

 あるいはタイトルに呼応させて、出す当てのない手紙を書くことで喪の作業を行う、とか。

 

■東京ニトロ「僕らの時代」

 六万字という長さを意識させない面白さ。長さで失格になっていなければ、大賞の最有力候補だったことだろう。ここに描かれているのは架空の近現代史に見えるけれども、実際のところアメリカで起きていることほぼそのままであり、いまだに東京オリンピックはどうなるかもわからず、舞台はまさに現代、僕らの時代である。過去の作品と比べても一番面白かった。

 特に、今までの作品の中では、一番個人規模の出来事と世界規模の出来事がきれいに連続しているというか、無理なくつながっている、そこに好感を持った。小さな悪意と大きな悪意によってその二つが接続されるのは、世界が悪意でつながっていくというテーマとも一致している。

 問題は、三人の学生がディープフェイクと世界の滅亡に走る理由の描写が少し曖昧だったということだろうか。そこの書き込みをもうちょっと濃くして、大森氏の指摘の通り、ハヤカワSFコンテストに出すといいのではないか。それと、この作品は量子論SFで散々やられてきた、意識が世界を作るとかエヴェレット解釈的なパラレルワールドとかそういうのがテーマで、走馬灯を利用したある種壮大な夢落ちになっているので、そこら辺の既視感もどうにかしてほしい*5

 それと、プルーストってこの作品の雰囲気に合うかなあ、というか、プルースト引用するとき、みんなマドレーヌの話しかしないよね、いや、一番有名なエピソードだし、それ以外の引用をしても未読でわからない人が多いだろうけれど、この引用はさんざんされてきたから、たまには別のところからの引用も読みたいなあ。*6*7

 

■一徳 元就「ここもあちらも粘る闇」

 短歌や詩でAIとコミュニケーションを取るという設定、とても面白そう。掌編程度の長さであっても、どれだけ短歌を作らなきゃいけないかを考えると、すごい手間だけれど*8

 別の知性体と数学や音楽でコミュニケーションを取るというのはあるけれど、短歌は初めて見たかもしれない。そういうのがあったらぜひ知りたいなあ*9

 

■揚羽はな「ヒカリゴケと人魚」

 面白かった。当初の予定のように、野口英世をそのまま出すよりも良かった。

 医学・生物学的に正しいかどうかはわからないので、それ以外の部分を。これは、危機にあたって芸術家には何ができるか、という話でもあるのだと思う。芸術だけではなく、危機が起きたときに専門外の学者は何ができるのか、という問いも含んでいるのだろう*10。人物の描写もそれぞれキャラが立っているのでスムーズに読める。

 これは、撤退の物語であるにもかかわらず、読後感はいい。しかも、幼馴染との再会というべったべたに甘い話であるにもかかわらず、いやな感じを受けないのは、たぶんSFとしてきっちりと理論で押している部分があるからで、甘みと苦みのバランスが適当なのだ。ロッククライミングの高度と放射線の線量とか、重力の弱い火星という設定ともしっかり絡んでいて、伏線が一番緊密で、よく練られた作品の一つだった。

 だからこそ、終盤の火星というか太陽系以外からの遺伝子によって寄生されるかもしれない、あたりからの展開がすごく急で、ここからの葛藤ももっと書いたらよかったのかな、とも感じられた。要素としても、未知の感染症、火星植民、幼馴染の謎、とかなり詰め込んでいるので、もう少し長く書ける気がする。いっそのこと長編にしてもいいのかもしれない。今のままだと息切れ感が無しとは言えない*11

 あとは、SF的な設定で、AIの診断に人間が勝つという部分、序盤にもうちょっと伏線があるといいのかも。効率化のためにカットしている機能がある、みたいな会話がちらりと入るとか。今でさえAIに勝てないんだから、この時代にAIに勝つのって相当厳しい条件で、だからもうちょっとエクスキューズが欲しい。

 とはいえ、やっぱりレベルは高い。愛らしい見た目でありながら、しっかりとハードなSFであった*12

 

■遠野よあけ「木島館事件」

 文系SF。様々なアイディアが潤沢に投入され、SF的想像力についての論点・視点が投入されたうえで、連続殺人のフォーマットに落とし込まれる。おかげでとても読みやすくなる一方で、京都アニメーション放火事件からは少し隔たってしまった感じもあり、解釈する上での苦しさも感じる。この辺の解決は「恩寵事件」で触れられていたのだろうか。

 こう、村上春樹没後の世界の描写を読んで、そうだよなあ、人間って順番に退場していくんだよなあ、と妙にしんみりしてしまったのだけれども、奈津流の亡霊が出てくるのはそれこそ「1Q84」の天吾の父親の亡霊みたいで*13、こういう目配せのようなものは僕が見つけられていないだけで、他にもたくさんあったんじゃなかろうか、とも思う。

 ただ、これもやっぱり冒頭の説明に比べて後の展開がとても速い気がしていて、これは恩寵事件と合わせて、ハヤカワSFコンテストに出すのがいいんじゃなかろうか、って気がしてしまう。数えたわけではないが、あの賞はメタSFというか、SFというジャンルそのものに対してかなり評論的・自覚的な作品の割合は比較的高かったように思う*14*15

 その加筆によって、ここで焼死した七人はいったい何にとらわれていたのか、何に呪縛されていたのか、そこが解き明かされるところを見てみたい。それとも、そんなことをしたら常識的なものになってしまうだろうか。一切の理屈を拒絶する炎によって、書物はすべて燃えてしまったほうがいいのだろうか。僕にはよくわからない。

 ところで、〈づ竜を二←す→あ命さ実みはえよふたろほ×ん↓↑○美な海脳安純が点る足山☆うだ瓶青もはがへ。〉以下の文字列が、SF創作講座の受講者のペンネームや作品から来ている文字が混じっているように見えて、幾分ぞっとしたのだけれども、気のせいだったのだろうか……。気のせいだよね……。

 

 まとまらなくなってきたが以上。

 

 これにて、ざっくりと読んだだけではあるが、全実作感想完了。

 皆様、お疲れ様でした*16

*1:風と共に去りぬ」に注釈をつけてから再配信、みたいなニュースがあった。

*2:我ながらこれはかなりの暴論である。問題はもっと入り組んでいる。これはあくまでもごく一部。

*3:あるいはヒューマノイド、エイリアン、その他人間に近い存在。

*4:逆にすごくSF慣れしているわけではない読者に向けてだったらこれくらいでちょうどいい可能性はある

*5:量子論SFってこういうのが多い。

*6:あくまでも純粋に個人の趣味の話です。

*7:自分へ。「失われた時を求めて」を形だけでも完読したぞアピールは見苦しいからやめましょう。

*8:手間と原稿料との比率を考えて……。

*9:禅問答でやりとりするってのはあったはず。

*10:自分も原子力発電には思うところはそれなりにある。

*11:ごめんなさい……。

*12:ハードにするには自分の専門分野である必要があるのだろう。

*13:あれよりは理性的に会話が成り立ちそうではあるが。

*14:ここまで書いてきて、なんでわざわざライバルを増やすような提案をするのだろう、と思った。

*15:文字数を膨らませるにはSF的にはMexholeの開発秘話を書く手もないではないが、どこまで本筋・テーマにに絡むかどうかわからない……。

*16:ちょっと早いか。

最終課題:ゲンロンSF新人賞【実作】感想、その4、まさかの最終候補

■番狂わせ

最終課題:第4回ゲンロンSF新人賞【実作】 – 超・SF作家育成サイト

 一度も梗概が選ばれたことがないのに、ここに残ることができたのは、梗概感想会のおかげだと思う。感謝します。

 

 以下、感想。

 

■藍銅ツバメ「めめ」

 異界に行って、帰ってきた話。とはいえ、ただ帰ってきただけではなくて、いつまたあちらに連れ戻されるかわからない不安定さに由来する怖さがある。たぶん、この人の書く怖さっていうのは、そういう今にもふっと消え去ってしまいそうな感じに由来しているのかも。また踏み外したら次はない、的な。蛇女の話でもそうだったし、縊鬼でもそうだった。そこが得意なのだろうか。

 もう一つのポイントは、なじみ深いのに何か変、という違和感だ。たとえば、李の格好は今の子どものようだけれども、どこか話の通じなさがあるし、高校の友人という見知っているはずの相手がいつの間にか六つ目おばけになっているのも、見知ったものがどこかおかしい、みたいな怖さというか不可解さだ。異界の住人の行動原理も、背後に善悪の基準があるのかどうかよくわからず、そこがまた良い。記憶が曖昧で何が本当のことかわからないぐらぐらした感じも、うまいと思う。

 話の通じなさっていうのは、面白いテーマで、たとえばエイリアンとの相互理解を目指す話だったら抒情的なSFになるし、ひたすらずれた掛け合いを楽しむようにしたらコメディになるし、コミュニケーション不全を描けば不条理やホラーになる。時には悲劇にだってできる*1

 兄妹の関係もこんな感じだよね、ってのが何となく出ている。兄を名前で呼ぶあたりにリアリティがあって好き。確かに、半ば自分のせいで起きた事故で死にかけた妹を救うため、激情のあまり片目を差し出したってのは、ちょっと紋切り型な気がないでもないけれども、異界の雰囲気は僕好みだったので、好きな作品。

 それにしても、こういう不気味さが好ましく思えるときと、単純な不快感だけを覚えるときとの違いって何だろう?

 

■中野 伶理「限りない旋律」

 最初から最後まで三者の欲望がすれ違い続けている。そういう意味では作者の狙いは達成できている。実在する様々な脳科学の実験に対する知識にも大きな問題は見つけられなかった。つまり、情緒豊かでありながらもSF度も高い。確かに、物語が動き出す前の序盤では背景説明がややくどい気もしたが、十分に修正できると思う。音楽からその本質である時間を取り除いたらどうなるかという思考実験でもあり、基本的に僕がとても好きな方向性である。

 作者は「Di-mensions」でやったことを、さらに押しすすめている。しかも、あの時のように舞台は第二次世界大戦中ではなく、未来だ。作者は確実に前に進んだといえるだろう。高次元を絵画にしたと称する作品は当時からすでにあった。しかし、時間感覚の壊れた音楽は? 少なくとも自分は知らない。不協和音を狙った音楽ならともかくとして。

 問題点があるとしたら、オルガの行動原理がAIへの好奇心だけで、少しおとなしすぎるきらいがないではないことか。純粋な観察者に近い。とはいえ、あまりにも激しすぎればこの作品の雰囲気を壊すことにもなるし、そこらへんはバランスが難しい。

 そう、この雰囲気は守り続けてほしい。「恐らくビバルディだろう。教養の範囲で判別できる曲だった」と言い切ってしまうこの感覚。ここまで言い切ってしまうのならば、突き抜けてしまうほうがいい。

 余談だけれど、フィリップ・グラスセサミストリート「Geometry of Circles」ってのを作曲しているのを思い出した。子供番組ってたまにそういうすごい人がかかわっていたりするから油断できない*2

 

 

■安斉 樹「サノさんとウノちゃん」

 発想にあたたかなユーモアがあって、読んでいて気持ちが良かった。まっすぐな青春。

 けれども、物足りないところがいくつかあった。たとえば、サノさんとウノちゃんがどんな人(?)なのか、もう少し会話だったり行動だったりで示してほしかったし、他の人の頭の様子もちょっと覗いてみたかった。それと、作品の結論が、「頭で考えるだけじゃなくて体の声も聴いたほうが調子出るよね」みたいな感じで、それはまったくその通りだと思うのだけれども、ちょっと意外性に欠けていた。

 もうちょっと作者は登場人物に意地悪になってもいいかもしれない。意地悪っていうのは、単に登場人物をひどい目に合わせるというよりも、葛藤させるということで、もっと梗概にあったように身体の動きのちぐはぐさの描写を増やすとか、意見の対立で困る場面を増やすとか、ついつい後輩に嫉妬してしまうとか、そんな感じだ。サノさんが「そんなことを考えちゃだめだ」と言いながらもウノちゃんがすごく悔しそうな顔をして、でもその気持ちを抑えなきゃって頑張っちゃうところとか。

 せっかくかわいいキャラクターなのだから、もうちょっと台詞を個人的にはあげたかった。ラストシーンあたりで二人に何か言ってもらうとか。

 

■藤田 青「蒼子」

 初稿を読ませていただいたときに一番の不満だった、アフリカに落下した隕石に付着したウイルスでパンデミックが起きていた、みたいなくだりが削除されていたので良かった。「2020年秋の新型コロナ感染症と街の風景を書いてほしい」という依頼に率直に向き合うにはそのほうが適切だ。誰がどう考えてもこれコロナのアレゴリーだろうってのを書くくらいなら、そのまま書いたほうが個人的にはすっきりする。

 文章もしっかりしているし、観察力もある。短い文章で、適切な描写もできている。今の気分的なものの記録としては申し分ない。ただ、だからこそ語り手の人生観と、自分の価値観の違いが際立ってきて、誠実に評価するのが難しかった。例えば、かなり衝動的な語り手なので、政治問題から突然気に食わない教師のことを思い出されても、僕には相当に唐突に感じられた。なんというか、若干八つ当たりの気がしないでもない。

 端的に言えばテロリズムをどこまで肯定するかという差であり、ある価値観をどこまでまっすぐに信じられるかの差だ。僕はどちらかといえば保守的な人間であり、懐疑主義者である。何かをぶっ壊して最初から作ったら、もっと面倒くさいことになると信じているタイプの人間だ。だからだろう、うまく感情移入することはできなかった。

 おそらく自分が、暴力に対してはすぐにおびえる怯懦な人間だからでもあるのだろう、どれほど退陣いただいたほうがいい政治家であっても、殺すことはいけないことだ、と心理的にブレーキをかけている。作者は何も悪くない。単純に相性の問題だ。

 もう一つの感情移入しにくかった理由は、語り手の情報が少ないからだろう。もちろん、どんな仕事をしてきて、どこに行ってきたかは明確に語られているし、どんな性格なのかも文体からよくわかる。ただ、年齢と性別をはっきりさせるものが少なかった。

 別に、そんな外面的な条件をはっきりさせる理由なんてまったくないし、そんな概念を超越した小説なんていくらでもあるので、この意見は無視してくださって構わない。たぶん、僕みたいな保守的な読者に合わせるよりは、この方向で突っ走ったほうが、確実に良いものになる。僕の好みから外れているが、とても上手なのだから*3

 

■泡海 陽宇「晴れの海から、泡宇宙へ」

 宇宙のことが好きなのだな、というのが伝わってくる。

 残念なのは、ここからお話が面白くなるんじゃないかっていう芽がたくさんあるのだけれど、それが最後まで開花せずに話が終わってしまっているところだ。だから、毎日少しずつ書いていって、お話の最後まで連れて行ってほしい。

 系外惑星パズルゲームを解いた先にある天体には、どんなものが待っているのだろうか。見せてくれる日を楽しみにしている。

 

 以上。

 

*1:「銀河ヒッチハイクガイド」で面白いのは、話の通じない連中とのドタバタが中心なのに、最終話では思春期の娘と話が通じないことが前面に出てきて、コミュニケーション不全のコメディだったのに、いつのまにか言葉が通じない悲劇にすりかわっていた。

*2:小澤征爾が出演したこともある。

*3:作者はどこまで読者に配慮すべきについては長い議論があるのでここでは触れない。

最終課題:ゲンロンSF新人賞【実作】感想、その3

■いただいた感想。

 

 ありがとうございます。やっぱり力抜いて書いたほうがいいんだなあ。

 それと、やっぱり私小説的な要素を混ぜたほうがよくなるっぽい。どこまで自分を削り続けることができるかはわからないけれど*1

 それか、ある程度登場人物と当事者性を共有するってことだろうか。このあたりについてはもう少し突き詰めて考えたい。

 

■式宮 志貴「わが東京ドームは永久に不滅です」

 またアホなことしてる、と見せかけて、実はきっちり計算しているのがよくわかる。

 というのも、物語のどの時点で見せ場を作るかの波が、きっちりとエンタメの骨格をなぞっているからだ。作者は、かなりちゃらんぽらんな作品を書いているようでいて、実はかなり配慮して書けるタイプなのではないだろうか。少なくとも、講座前半の作品と比べるとリーダビリティはどんどん上がっている。しょうもないネタも多数あるのだが、その姿勢は作品全体を貫いており、読者をちょっとくすぐったらすぐに退場する。何が言いたいのかというと、「NO SUMOKING DIMENSION」のときのように、ネタありきでストーリーを作るのではなく*2、ネタはストーリーを彩る脇役として抑えめになっているのだ。アホなのは間違いない、しかしそのアホらしさがただのアホらしさで終わっていないのがすごい。

 とはいえ、「NO SUMOKING DIMENSION」のときもそうだったのだが、とりあえず因果律の果てとか特異点とか濫用しすぎる傾向があるので、今度そのネタを封じるのはどうだろう。

 そうそう、書いていて気付いたのだけれど、これ、ただの関西人によるアンチ巨人小説じゃないのが、阪神タイガースSF*3のなかで特筆すべきポイントなんじゃなかろうか。むしろ、ライバルの本拠地である東京ドームを、野球にとどまらないエンタメの殿堂として讃えているこの姿勢、とても立派である。

 希代のアホ小説に、まじめなことを書くのはそれこそアホらしいかもしれないが。

 

■武見 倉森「ある証言たち」

 タイトルは変えたほうがいい。それ以外は、自分はうまく欠点を見つけることができなかった。せいぜい、ニーチェという名前のわざとらしさくらいか*4

 集団で行う競技の何が面白いのかさっぱりわからないぼっち充の僕が、サッカーについて書かれた文章が面白いと感じることがそもそも非常に珍しいのだが、つまり興味がない相手にも面白さを伝えるのに成功しているので、非常に高い筆力の証左である。また、登場人物もきちんと感情を持ちながらも筆致は抑制されており、まったくうるさくないのも僕の好みだった。それぞれの登場人物の行いがただの悪としてではなく、自分にとって大切なものを守るために道を誤ってしまった結果であることも、静かでありながらも緊張感をはらんだ作風ともぴったりだ。

 もう一つ特筆すべきは、精神疾患というテーマに真摯に取り組んだことだ。うつ状態からその回復期にある人間が、果たして人間を刺すという行為に及ぶかどうかには疑問符が付くが*5離人感をもたらす無茶な治療*6をされた人間の抵抗や、判断力の低下と考えれば、理解できなくはない。明確なうつ病と書くことをやめるなど、微細な修正で対応できる気がする。

 そしてまた、強い人間であることを要請され続けるスポーツ選手のメンタルヘルスという、現実の問題と地続きであることも見逃せない。過度に男らしさが求められる男性選手の精神的なプレッシャーも扱われている*7

 確かに、もっと〈アレグリア〉の技術について深く知りたいうらみもあるが、短編なのでこれが適切だろう。それに、この作品はアーノルドの物語だ。それ以外の要素は余計であり、この作品に余計な要素は見当たらない。

 

■渡邉 清文「鏡の盾」

 ギリシア神話オールスターズ。こういうの大好き。

 神話の登場人物が、原典にある程度は忠実でありながら、それにとどまらない個性を持っている。ほぼ無個性であったはずのゴルゴン、グライアイの三姉妹がきちんと書き分けられているし、ナルシスも単純な自己愛だけに終わっていない。鏡に映った自分の姿を見てばかりという意味ではそのままなのだけれど、他人とあまりかかわろうとしない、興味がないという要素は新しい。これもナルシスのキャラクターを、そもそも他人が見えていない、というものへと再解釈したことによる成功だろう。そうすることで、メデューサとの化学反応が非常に面白いものになっている。原典では鏡越しに見ればメデューサの魔力は無効化された気もするが*8、それだけヘファイストスの鏡が精巧だったということなのだろう。何度も言うが、自分は古典をベースにしながらも、設定を深読みしたり意図的に解釈を変えたりすることで、全体の相貌を大きく変えるタイプの作品が大好きなのだ。それに、無数の鏡による光学攻撃は絵的に格好がいい。

 もちろん、オールスターズにしたことの欠点もあって、ミロのヴィーナスをテーマにしたときの課題を混ぜたので、焦点がゴルゴンとグライアイからちょっとずれてしまった感じもしないではない。しかし、魅力的なサブプロットではあるので、削るのも何か違う気がする。なんだろう、長さが足りないのだろうか。しかし、神話なので語り口はこれくらいの密度でちょうどいい気もする。適切なアドバイスができず申し訳ない。

 それにしても誰もいないパリの街、図らずも現代を描いたものになってしまった*9

 

■九きゅあ「デスブンキ ヌーフのダム」

 作者の中では明確なルールがあり、それに則って話が機械的に進んでいるのだが、情報量があまりにも多すぎて、理解するのに非常に手間がかかった。というか、作者の意図を半分も理解できている気がしない*10

 まず、冒頭で「1.世の中には分岐を持った人間、フォーカーが1パーセント未満の割合で潜在する」云々と、ルールがいきなり六つも紹介されるが、それを理解する間もなく、どんどん新しいルールが追加されていくので、とりあえず何が起きたのかを追うのが精一杯になる。漫画「DEATH NOTE」などでも、やたらと細かいルールがたくさんあるが、それはそれなりの長さの中で少しずつ紹介されていくし、頭脳戦の中で明らかになっていくので、それらは自然に読者の頭に入る。また、正確に理解していなくても楽しめるように工夫されている。たぶんこれだけの数のルール、長編にしないと収まらない。

 ここでは作者が表現したい壮大な世界があり、思い切り背伸びをしてチャレンジはしたものの、どこかうまくいっていない感じが伴う。例えば、どうして人が死んだら分岐ができるのか、そもそもノアの箱舟がどうして出てくるのか、何でそこでカリフ制が出てくるのか、沖縄と何の関係があるのか、それは単純にノアとヌーフという人名と沖縄の地名を絡めた言葉遊びに過ぎないのではないか、と疑問がたくさん出てくるが、作中の説明からだけでは、自分に知識が足りないせいで、まったく理解できなかった*11

 正直、作中に複雑すぎるゲームのルールを導入する前の、講座前半の作品のほうがずっとリーダビリティが高く、読んでいて素直に楽しめていた。小説というのは新しいゲームのルールの説明をする場ではなく、基本的には読者がリラックスした状態でも何が起きているかを理解できるようにしておく必要がある。小手先のテクニックかもしれないが、読者の頭にいかにストレスなく情報を流し込むかは、とても大切なことだ。あと、90階以降のフロアを全部順番に書いていると、正直だれる。

 それでも、難しいことにチャレンジしたその意気は買いたい。背伸びをしないと前に進むことはできないからだ。自分としてはかなり厳しいことを書いてしまったが、これを初稿として、どうやったらもっとわかりやすくなるのかを考えつつ、何度も書き直すのがとてもいい練習になると思う。僕も、数週間置いて自分の小説を読みなおすと、この説明は複雑すぎるからカットしようとか、この設定はただの自分の趣味だから延々と説明をするのはやめようとか、いろいろと気づくことは多い。どのルールが本質的で、どのルールは省略可能か、検討してみてはいかがだろうか*12

 

■宇露 倫「国桜」

 自分が過去に要求してきたことをきちんと乗り越えてくれたので、個人的にとてもうれしい作品。悪役がしっかり存在しているし、だからと言ってそのキャラクターが悪のための悪になっていない。物語に強烈な推進力を与えてくれるこういうキャラクターが、まさに足りていなかった。また、本人が表現したいモチーフが物語の中心になっていながら、決して物語の自然な展開を阻害しておらず、むしろストーリーを後押ししている。作者がやりたいことと書きたいことが調和している。

 作者がやりたいのは、おそらくは非常にアクティブな肉体や、動けなくてもどこまでもつれて行ってくれる存在を表現することなのだろう。これは、第一回の作品とも共通しているし、それらは一年間丁寧に引き継がれてきたが、ここまで自然になったのは今作が初めてだ。話の筋は第一作をなぞるが、ゼロから書き直されて設定が非常に受け入れやすくなっている。作者と対面して言葉を交わした身としては、作者の個人的事情や思い入れも、しっかり伝わってくるが、ストーリーそのものを決して邪魔していない。

 読者というのはある意味では残酷で、小説には単体での面白さしか求めていないことが多い。たとえば作者が失恋で、精神疾患で、家族の喪失で、どれほど苦しんでいたとしても、物語として面白くなければ小説は見捨てられるし、それどころか安易な自分語りとして同情してもらえないことも多い。仮に、作者の苦しい事情を知らずに読んでもらえたとしても、作者個人の苦しみはしばしば気づかれずに黒子のままだ。でも、作者はそれをよくわかっている感じがある。読者を楽しませることを第一義としている。昇華とはこういうことを言うのだ。

 会話も気が利いている。時々やりすぎるし、あまり脈絡のないカラードという言葉は、使いどころが適切だったかどうかは疑わしいが、それでも造語センスだとか会話の応酬だとかは、自分に一番欠けているものなので、個人的には大変うらやましい。

 全く紋切り型ではないかといえばそうであるかもしれないが、短編だとこれくらいでちょうどいい気がするし、変化球を常に投げればいいとも限らないのである。

 それにしてもいいよね、時間で引き裂かれる家族もの。

 

以上。

*1:「枯木伝」は私小説ではないが、淡路島に行ったこと自体は現実のことであった。

*2:神曲」の天国を全部めぐるみたいなあれ。

*3:なんじゃそりゃ?

*4:あだ名なのかな?

*5:SSRIの副作用で衝動性が強まることは指摘されてはいる。

*6:虐殺器官」の痛覚マスキングがモデルだろうか?

*7:ただでさえ相手との深い信頼関係が必要なLGBTのカミングアウトは、男性のスポーツ選手の場合、古典的な男性像のイメージを求められるため、さらに困難だという記事をどこかで読んだ覚えがある。

*8:記憶が曖昧……。

*9:狙っていた?

*10:すみません、単純にこの作品と自分との相性があまりよくないか、氏とは文学観が異なっている可能性があります。そのため、以下の文章は話半分に聞いてください。

*11:この理由を明確に言語化できていると、作品はずっとよりよくなると思う。

*12:一度初稿は読ませていただいたし、初稿と比べて補足された箇所もあるのだが、そういう部分的な改良ではなく、大手術をお勧めする。

最終課題:ゲンロンSF新人賞【実作】感想、その2

■近況

 さっき真夏の服を買った。

 で、新型コロナウイルスについてだが、やはり感染症について理解を深めないと、議論の細部を追えない。というか、そもそも感染症について直感的な理解ができていない。

 原発事故のときは、自分には幾分放射線の知識があったので、何をどうすればどのくらい危ないかは肌で理解できていたし、リスク感覚もそこまで的外れではなかった、と自分では思っている。大学院ではX線を使う装置を操作する関係で放射性物質を扱う研修に出席したし、実際に微量の放射性物質を目の当たりにすることができた。博物館に行けば霧箱も置いてあるので、目の前で宇宙線が自分の身体を通り抜けていることを実感できた。

 しかしウイルスの場合、病原性には変異があり、リスクの変動が速い。中でも最も予測できないのが人間の動きだ。どれほど知識を身に着けても、大学の教養レベルの生物では、なかなかに厳しいものがあるな、と実感している。一応大腸菌の遺伝子組み換えの実験はやったことはあるが、感染症とはだいぶ別の話だ。

 

■いただいた感想

SF創作講座の最終実作を読んでみたので、勝手にオススメするよ、という回|香野わたる|note

 香野わたる氏から。ありがとうございます。

私小説的なSF。技術の拡張により世界中の文化が隣における社会に生きる凡夫の物語という意味ではSFなのですが、どう判断されるでしょうか。

 確かにその通りだ。それにしても、自分は何を書いても私小説になってしまうし、そうでなくなったら地に足がつかなくなる。どうしたもんだろう。ゆっくり考えていこう。

 

 以下感想。

 

■夢想 真「蘇る悪夢」

 ホラーを読むほうではないので、怖いか怖くないかの判断は控えさせてもらう。その代わり、どうすればこの小説がよりよくなるか、について書きたい。

 まず、主人公のアキオが登場するまでに時間がかかりすぎているので、最初の他人の悪夢の描写はカットする。それから、視点を終始アキオからにする。アキオが主人公だと理解するまでに、自分はかなり時間がかかってしまったからだ。

 また、視点を終始アキオからにすれば、初対面の富樫警部補とサナエが敵か味方かわからず、読者の興味も引き付けられる。今のままでは、この二人が最初から敵か味方かはっきりしすぎている割には行動原理が謎で、焦点がぼやけている。そして、二人のキャラクターを深めるというか、印象的にしてほしい。二人がどんな人物なのか、もう少し情報がないと、物語を進めるための道具になってしまう。

 ぼやけているといえば、そもそもこの小説をホラーにしたいのかSFにしたいのかも揺らいでいる。読者を怖がらせたいのなら、ラストのバクに食われるシーンは軽妙すぎるし、黒い服の怪物をもっと正体不明にしたほうが怖い。自分の正体を語るお化けって、あまり怖くないんじゃなかろうか。逆にSFにするんだったら、もうちょっと他人の夢の世界がつながっている仕組みとか、サナエが無意識を読める理由とかを知りたいし、なんだったら怪物の正体をかなり論理的にしてもいい。今のままだと、夢から怪物を実体化させる技術が、何となくかっこいいから出しただけ、になってしまう。SF風味を強めるなら、「風牙」が参考になるかもしれない*1

 あとは、説明しなくてもわかる個所に描写を割き過ぎているので、もうちょっと文章を刈り込む必要がある。

 ところで、実のところ怖い夢を怖く書くというのはとても難しい。というのも、個人にとって一番怖い夢がどうしてそこまで怖いのかといえば、それは個人的な記憶に根差しているからで、それを第三者に伝えるためには、相手の過去の人生について知ってもらう必要がある。誰にとっても怖い、高所からの落下だとか大爆発かならともかく、個別の夢の恐ろしさを書くのは、かなりの難題だ。

 加えて、あくまでも夢であるがゆえに、どこか茫洋とした感じが欲しい。あまり明確だと夢らしくないのだ。つまり、アキオが過去を思い出すシーンの斜体の部分、「熱い陽射しが降りそそぐ山道の、むせ返えるような草いきれの中を、親子が歩いている」から始まる個所は、夢にしてはあまりにも論理的で、説明的に過ぎる。それに、これをアキオが一人称で思い出しているというよりも、作者が説明しているように読めてしまって、没入感が失われるのではないか。

 ただ、改稿すればもっと良くなる気配がする。個人的におすすめなのは、初稿を書いたらそれを原稿用紙数枚の梗概にし、初稿を読みなおす方法だ。そうすることで、小説のどの要素が根本的なもので、どこが枝葉なのかがわかり、削ったり逆に足したりすべきところが、はっきりしてくる。

 

■古川桃流「ファントム・プロパゲーション」

 アイディアの源泉はこちらの記事だろうか。ここでは、キャプチャを利用して古書の文章を解読させようとしている。

https://srad.jp/story/07/10/02/2339225/

BBC NEWS | Technology | Spam weapon helps preserve books

 さて、小説としてはしっかりしていると思う。おじいちゃんのキャラが立っているし、印象付けることには成功している。論理的にも破綻は見られない。

 とはいえ、少し地味かもしれない。どこが地味なのかといえば、ポイントは複数ある。

 たとえば、主人公の開発場面。一年くらいを通してソースコードアウトソーシングしながら書き換えていくのだけれども、そこは主人公が何をどうした、といった描写が淡々と続き、読み飛ばしそうになってしまった。主人公が在宅で作業をしているので人との接点が少なく、必然的に会話も少なくなり、結果的に掛け合いからキャラクターを印象付ける機会が減ってしまう*2。動きが少ない場面を、興味を持ってもらったまま読んでもらう個所、僕も苦労する。

 技術的な細部についても、扱いが難しい。逆関数を使って云々のあたり、個人的はとても面白かったのだけれど、微分積分という言葉が出てきただけで混乱する読者というのは確実にいるので、もう少し嚙み砕くといいかもしれない*3

 もう一つは悪事の地味さだ。確かに、親の人格がアプリで変わってしまうというのは、かなり怖い話なのだけれど、変化がゆっくりすぎるというか、アプリのせいで人格が変化したのか、単純に認知症が重くなったのかが、読み取れない。だからと言って突然狂暴化する、ってのも、作風と違う気もするし、しかも、暴れるのも認知症の症状であると読まれる可能性があり、難しい。うまくアドバイスできなくてすみません。

 それと、高齢者にデータ入力をさせていたというのは、誤読していたら申し訳ないのだが、意図的に儲けようとしていたというよりは、巨大システムを作っていたら結果的にそうなった、という読みでいいのだろうか。そうだとしたら、無意識に行われる悪という意味では面白いのだが、結果がそれに比して地味な感じがする。意図的にやっていたのしたならばそれもやっぱり地味で、儲けるにはもっとうまい方法があるだろう、と思う。

 それと根本的なところを突っ込んで申し訳ないのだが、幻肢痛とこの現象の共通点がわからなかった。ファントム・プロパゲーションという言葉の響きはかっこいいけれど。

 ただ、老化SF、高齢者SF、身体障害SFってのは、高齢化社会パラリンピックへの注目が高まっている現代で、どんどん伸びていく分野だと思うので、もっとパワーアップしたのを是非読みたい。

 

■榛見あきる「踊るつまさきと虹の都市」

 完成度が極めて高い。登場人物の数を厳しく絞り、無駄がない。SF的な説明の個所も、例えば移動しながらだったり、抽象的な概念の後にすぐに具体例が出たりと、非常に親切。登場人物全員が何らかの秘密を抱えており、それが適切なタイミングで明かされることで、物語が驚きとともに進んでいく。悪役のように見えたキャラクターでさえきちんと過去があり、納得できるだけの行動原理に支えられている。そのため、主人公が自分のアバターを奪還することに失敗する結末であるにもかかわらず、読者にとっては納得できるものになっており、読後感がよい。

 また、情報量が膨大であるにもかかわらず、読者にはそれほとんどストレスに感じない。説明がスムーズだし、物語上必要にして十分な量で、知識のひけらかしになっていない。鳥葬などの風習も、ただのエキゾチズムではなく、主人公たちの精神の基礎にある仏教的な考えを示すものとして、有効に機能している。

 なによりも、SFとして新しいヴィジョンを持っている*4。自分の身体をいかに扱うか、そもそも身体とは何か、という哲学上の重大な問題がエンターテインメントに昇華され、片腕をなくした欠落のある身体が、肯定的に語られる。障害のある身体が、ただの慰めやきれいごととしてではなく、唯一無二の表現を行う媒体として称揚される。つまるところ、障害論にまで議論が拡張されているが、そこにお説教はなく、単純なかっこよさがある。この人には限らないが、第1回実作で扱われていたテーマが、見事に結実した形である。

 ただし、タイトルはもっとかっこいいものがつけられたと思う。それと、誤解だったら申し訳ないのだが、「嫋嫋」は「じゃくじゃく」ではなく「じょうじょう」と読むのではないだろうか? 逆に言えば、自分の指摘できる欠点は、それくらいしかない。

 

■よよ「うつろね」

 僕はこういう方向性の作品がとても好きだ。しかしながら、好きだからと言って、それをうまく読解できるかどうかはまた別問題だ。これが「女性の、女性に対する嫌悪」なのだろうか、と他人の心情に疎い僕などは、首をかしげている*5

 嫌悪というか違和感は読み取れたのだけれど、それを嫌悪と呼ぶのならきっとそうなのだろう、と思う。で、梗概を読んだ時点で、自分は女性の角を般若の角や男性原理にたとえたのだけれど、もしかしたらこれは(男性社会への?)過剰適応も含んでいるのではないか、という気もした。考えてみれば、琴やギターをつま弾けば指先は硬く爪のようになる。皮膚というのは、自分の心と外界を隔てる膜であり、それが角のように硬くなるほどに心がざらざらした現実に傷ついていた、ということなのか。ならば、本音を押し殺すことで作り上げてしまった角に貫かれるというのは、痛烈な皮肉だろう。

 あとは、こういう作品でどこまで現実の過去を厳密に再現するかは、とても迷ってしまうテーマだ。古典だと登場人物の本名はめったに呼ばれないので、こうして固有名詞が出てくるのは不思議な感じだけれど、あくまでも平安風で現実の過去ではないとすれば、それで構わない気もする*6

 それと、古い日本語はきれいだったけれど、ところどころ連体形ではなく終止形で名詞を修飾している個所があった気がする。あれって大丈夫なんだっけ?

 いろいろ細かいところをねちねち指摘してしまったが、著者が書いていてすっきりしたと聞いてこっちも嬉しい。大体、創作っていうのは書いているうちに救済されるものであってほしい。それから読者も救済されればなお素晴らしい。

 

■品川必需「ムキムキ回転SFおじさん」

 これはどの辺がSFなのかなあ、と思いつつ、世間にハードSFの良さを伝道しようとしているおじさんは応援したくなる。

 ただ、これだけの長さで人の生き死にをやってしまうのは、ちょっと軽すぎやしないかな、とも思われて、でも作者もわかっているんだろうな、とも感じられる。1か月って本当に短い。

 これ、どういう方向に広げたら面白い作品になるのだろう。SF方面にもっていくんだったら、ドタバタSFにしてエイリアンみたいなどんどん変な奴らが出てきて、そいつらはみんな筋トレマニアで、持っている道具が本当に段ボールみたいな外見のタイムマシーンだとかパワードスーツだとか、みたいにしていくんだろうか。それか、泣けるSFにして亡くなったお母さんとの関係を軸にもっていくか……。僕がここで言うべきことじゃないな。続き待っています。

 

 以上。1日に1作以上のペースで読んだけれども、連休は他にも用事があるので、土日はさぼっていいですか……。

 

*1:すでに参考にしていたらごめんなさい。

*2:テレワークによるお仕事小説をどうやったら面白くするか、ってのが今後のエンターテインメントの大きな課題になるはずだ。

*3:個人的にはすごく面白かったが。

*4:これができている作品は、プロでも本当に少ない!

*5:作者ではなく読者の問題なので気にしなくて大丈夫です。後でもう一遍読んでみます。

*6:この講座では近過去SFの可能性に言及されていた。

最終課題:ゲンロンSF新人賞【実作】感想、その1、それから初めての金縛り

■近況

 初めて本格的な金縛りを経験した。

 口から白や黄色でまだらになった汚物を吐き出す夢で目を覚ますと*1、耳元で何やら奇怪な音がしている。猛烈な尿意がするが身体が動かず、思考もクリアではない。いわゆる金縛りだな、と意識のはっきりしない頭の中で考えていた。

 興味深い経験だが、自分はとっとと立ち上がって用を足したい。そこで、試みにお経を頭の中で唱えた。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。それから、般若心経も試みた。羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶。少し体が動くようになり、異音が薄れたかと思うと、視覚が真っ白に白熱し、身体が自由になった。お経のエフェクトがやたらかっこいいな、と思いつつ用を足し、眠りについた*2

 そして、朝になって考えたのは、自分はカトリックの学校に六年通ったのに、主の祈りではなかったのだな、ということだった*3

 普通に考えれば、最終実作提出後の緊張が解けて、睡眠リズムがおかしくなったから、ということだろう。検索すると、金縛りのときに「ジャスコ」とか「サイドモヒカンにすっぞ」とか唱えて脱出する人の経験が出てくる。金縛りというのは、脳の一部が寝ており、一部が覚醒している現象らしいので、言語の部分を活性化することで、全部がきちんと目覚めるんじゃないかな、と僕は解釈している。

 どうも、自分はこういう奇怪な現象に遭遇しても、そんなことよりもとっとと寝たいと思ってしまう性分らしい。以前も、夢の中で手首を切断され、汗まみれになって目を覚ましたところで、目の前に手の形が浮かんでいたのを見たことがある。自分でもどういうつもりだったのかわからないが、その浮かんでいる物体に顔を突っ込んでみたところ、消えてしまったので、やっぱり脳がバグっていただけなのだろうな、と思う。

 とはいえ、わざわざ心霊スポットに足を運ぼうとは思わない。まあ、仮に夜中に見たものが幽霊の類だとしても、家にはお札だとかお守りとかがあるので、心強いこと限りなしである。

 以下本題。

 

■方針

 1日に1作品ほど読んで感想を書く。自分の作品を除いて25作品あるので、5作読んだら1つ記事にする。全5回になるはず。そのペースなら。おそらく8月28日(金)には間に合う。最終候補作品選出までに間に合うかはわからない。

 

■天王丸影虎「林檎の贋作」

 4000文字のお話としては過不足がない。自分は、ショートショートを得意としていないので、これをさらに磨き上げる手段は思いつかないのだが、基本的には余計な個所を削り、細部を磨き上げることになるだろう。たとえば、個人的には成田空港でのチャットは必要なく思われたし、サウスパークを引用する理由もわからない。作品全体がサウスパークをテーマにしているわけではないし、アメリカ文化に言及をする理由が薄いからだ*4。そして、短くまとめるには、ジャーナリストと少女の二人の関係の変化だけに焦点を当てるのが適当ではないか。そうすれば、話を長くする原因となる、万能コピー機による社会の変化については、ほとんど触れずに済む。

 問題点としては、人間のコピーという発想はすでに「吉田同名」をはじめとして先行作品がすごくたくさんあるので、この作品でしか示せない感情を表現しないといけないだろう。

 ぜひぜひ、どんどん改稿して、さらに良いものにしていってほしい。短いということは、ブラッシュアップしやすいということだからだ。

 ショートショートは難しい。一切の無駄が許されない。そして、切れ味のある台詞が必要だ。

 

■稲田一声「おねえちゃんのハンマースペース」

 間違いなく「きずひとつないせみのぬけがら」の系譜に属する作品だ。アイデンティティや役割を突き詰めることで、世界全体を書き換えてしまう、かなり思弁的な作品だが、リーダビリティは非常に高い。受講生の作品によっては、短くても読むのが疲れることがあるのだが、本作はそうしたことからは完全に無縁だった。

 ハンマースペースというギャグマンガ時空のものが主題であるも関わらず、それが冗談としてではなく真剣に扱われているが、作品の雰囲気がうまく不条理感を覆い隠し、しんみりとした情感を与えている。要所で金槌や木槌が使われており、それさえもジョークとしてではなく、作品を支える小道具となっている。

 もう一つよくできているな、と思わせられるのが構成で、冒頭と結末の葬儀の描写が見事に呼応している。さらに、本人からしてみると日常だけれど、読者からしてみればそうでもない、という場面の描写の温度感もいい。虐待を受けている子供が事態を平然とそれを受け入れていることや、主人公が同性愛者であることを淡々と自分の一部として物語っているときの、没入感が優れている。

 そして、人間の複製だらけになる、というラストは薄気味の悪さよりもどこかもの悲しさがある。もはや自分の固有性すら保証されず、役割によって定義づけられる、自分が代替可能であるこの世界を、やんわりと風刺したようにも読める。

 そのせいだろうか、技術の細部に対するツッコミを入れようという気にはならなかった。たぶんそれは、論理的だからというよりも*5、抒情的に書いているからなのだと思う。気にするのは野暮だな、と読者に思わせるのに成功しているわけで、このテクニックはぜひ盗んでみたいところだ。

 

■今野あきひろ「受戒」

 今まで一番読みやすい。その理由は恐らく次の通り。自伝的要素、個人的経験の割合が多いため、登場人物の行動原理が比較的想像しやすい。また、登場人物が謎の確信のもとで行動しないため、物語の展開が速すぎない。また、起承転結や因果律が比較的強い。登場人物の行動が原因で、こんな結果になったのだな、というのが、今までの何かを作りたいという衝動にひたすら駆られての作品と比べて、読み取りやすい。

 アピール文によれば。講座受講前は小説を書いたことがなかったとのことで、少し驚いている。というのも、小説を書くための前提条件として、まずはある程度のペースで文章を出力する能力というのが求められているが、この人はそれをクリアできているように思ったからだ。あとは、自分の中の幻想というか、理屈はわからないけれども、このモチーフがどうしても使いたい、みたいな衝動の理由を、言語化できると、今後も改稿していくうえで役立つはずだ。

 というのも、よほどの天才肌でない限り、小説を書くというのはかなり論理的な作業になるためだ。たとえば、棒を押して何かを絞るような道具を物語のモチーフとして使いたくなったのはなぜかを言語化し、読者にはそれがどのような印象を与えるかを計算できていると、より自分の言わんとしたことを深めて表現できるのだと思うが、どうだろうか*6

 そうだ、もう一つ読みやすい理由がある。テーマが比較的一つに縛られているからだ。ここでは、身体を移動する意識、を軸に展開していて、そこを中心に読解すればいい、とわかる。はじめのうちは、とにかく書きたいという意識が強くて、そのあたりの統一が取れていなかったのだ。その勢いを失わず、しかし勢いはコントロールされた状態、というのが望ましい。創作では半ば酔い、半ば醒めている必要がある。

 

■藤 琉「螺旋のどん底

 この講座で大きく成長したメンバーの一人。今まで提出してきた実作の要素が、見事に結実している。それはゆがんだ社会システムに対する抵抗であり、制度化された差別への怒りであり、真の平等を目指すゲリラ的な戦いである。肉食の是非、調査捕鯨の正義もまた問うている。ストーリー展開が今までの作品の中で一番うまいので、最も楽しんで読むことができた。人間が差別を超克するためには、身体を捨てるという、ある意味では人間をやめるという選択しか残されていないのか、という絶望も読み取れるかもしれない*7

 もちろん、原稿用紙120枚にしては要素を詰め込みすぎではないかとか派閥が多すぎるのではないかとか*8*9、もうちょっとラストで主人公に活躍してほしいとか*10、要望はあるのだけれども、今までの中では一番作品そのものをコントロールできていて、そこがとてもよかった。ここでいうコントロールというのは、作者が自分の中にある熱い正義感や義憤にうまく手綱をつけ、小説としての盛り上げどころをきちんと調節で来ているということだ。最初から最後まで、社会問題に対する熱い問題意識で全力ドライブした文章は、評論やブログの記事としてはよくても、あるい程度の長さの小説としては読者を疲れさせてしまう。今作は、ストーリーだけでも読めるのだけれど、けっして背後にある政治的意識をなおざりにはしていない。エネルギーの噴出するべきポイントが、絞られているのだ。盛り上げどころを選んでいる、ともいえる。

 

■甘木 零「開化の空を飛びましょう」

 面白い。そればかりか実力がある、と僕は思う。いわゆる少年の夢として描かれがちな空を飛ぶイメージを、少女のものとして書き換えており、しかもそれは単に性別を入れ替えただけに終わっていない。女性同士の人間関係や感情の揺らぎも丁寧に織り込んでおり、とりあえず主要キャラを女性にしてみました、的な安直さとは無縁だ。地に足のついた、女性の夢物語だ。

 それに、オンラインの講評会で、初稿を見せていただいたのだが、そこで指摘されていた問題点をかなり刈り取っている。アピール文で、一次選考も通過しない、と嘆いてはいらっしゃったが、正直なところ賞のカラーで通ったり通らなかったりするので、それだけで実力が不足しているとは断定できない。個人的経験だが、創元SF短篇賞は通っても、ハヤカワSFコンテストや星新一賞は全滅だった。改稿がきちんとできるというのは実力のあかしだと思う*11

 で、僕はとても好きなのだけれど、この作品が評価されないとしたらどこが問題なのだろう、と僕なりに考えてみた。一つは、説明の部分の多さだろうか。背景の世界観がとてもしっかりしているし、土蜘蛛の正体にもきちんと科学的説明が与えられている。塩分で土蜘蛛が目を覚ます理由についても、授業風景の中できちんと触れられていて、不自然さがない。でも、たぶん科学的事実や歴史的背景の説明が丁寧過ぎて、伏線が緊密すぎるのかもしれない。必然性に縛られすぎている、とでもいうのだろうか。取材したからには使いたい、というのもあるだろう。郷土愛だってあるはずだ。ただ、小説を書く作業は、ある意味では伏線を丁寧に貼っておく知的パズルのような面があるが、それ以外の遊びの個所が、少なすぎると、今度はアイディアを説明する論文になってしまう*12

 もう一つは、語り切れていない物語が多いのも理由かもしれない。ミハルの父や早穂子の婚約者がどんな人物か、もっと知りたいと思われるのだ。この解決法として、長編あるいは連作集とする、というのがあるかもしれない。少なくとも、このお話はほんの少しだけ、長くしたほうがいいと思う。

 あと、連作集がいいと思ったのは、未完のお父さんの話を別の日に読ませていただいたからだ。あれはとても魅力的だった。伏線の厳密性は、未完のあのお話くらいほどで、僕にはちょうどいいと思われた。それに、あちらのほうが空想がもっと奔放で、作者が楽しんでいる感じがあった。

 

 以上。

 

*1:朝からなんてことを……。

*2:罰当たり。

*3:不謹慎。

*4:死んだはずの人間が復活する、という意味では近いかもしれないが、それならもっと適切な作品があると思うし、短い作品の場合、その引用のインパクトが強すぎて、引用元の作品のイメージで作品全体が塗りつぶされてしまう。

*5:作品そのものはかなり論理的だが。

*6:この講座の毎回1か月という締め切りは、自分の考えを深めていくにはかなり厳しい時間制限なのではあるが……

*7:美しい白銀の肉体に乗り換えても、僕らが今のままの精神を持つ限り、差別はなくならないと思うが……。

*8:旧人類とレフターとシジューサと秘密警察と火星人が出てくるが、これだけいっぱいいれば、長編にだって膨らませられるはず。

*9:ちなみに、DNAの二重螺旋の右巻き左巻きは、周囲の物質の濃度によって変わってくるのだけれど、ハードSFというよりは、社会派SFなので、そんな科学的厳密さにこだわるのは野暮な気がする……。

*10:自力で脱出していないので、脱出したあと何か、銀人を逆に助けるシーンがあるとか。でも、このままでも十分面白かった気もする。短篇だったらこんな感じでいいのかな。

*11:この講座の序盤でもそんな話が出ていた。

*12:僕もやりがち……。