スターウォーズと先住民、エンタメと国家のトラウマ

 正月休みに「スターウォーズ」をまとめて視聴したことがある。まだエピソード7が出ていなかった時期のことだ。順当に公開した順番に見ていたのだが、まず感じたのは「やはり欧米のエンタメの骨格にはローマ史があるのかな?」ということよりも、「このシリーズ、妙に先住民との共同作戦が多いな?」ということだった。

 たとえばエピソード6では衛星エンドアの先住民イウォークと結び、再建されたデス・スターを破壊する。また、エピソード1では惑星ナブーの先住民グンガンとともに通商連合と戦い、しかも地上と水中で別れて暮らしていた人間とグンガンとの和解も果たしている。地元の先住民と協力してゲリラ戦を行うことも、あるいは開拓した大陸の先住民と共存することも、どちらも実際のアメリカは失敗してきたにもかかわらず*1アメリカ開拓史やベトナム戦争での失敗をエンタメの中でやりなおそうとしているのではないか、と首をかしげたのだ。

 これだけだと悪趣味な勘繰りのようにも聞こえてくるのだが、日本でも似た例がある。日本のエンタメで人気のある展開として、一人の犠牲で大勢の仲間が救われるパターンがある。物量で圧倒的に不利な戦況を、勇敢な一人の突撃によってひっくり返すさまを見ると、自分はどうしても神風特攻隊を想起してしまうのだ。

 となると、次のような仮説が立てられる。ある国で人気の出るエンターテインメントには、その国家・文化圏が総力をかけて成し遂げようとしたが失敗した行為を、虚構の中で成功させている要素が含まれているのではないか。

 たとえば、「指輪物語ロード・オブ・ザ・リング*2」だ。寓意をなによりも嫌ったトールキンならば、このような読み方はきっと嫌悪を覚えるばかりであろうけれども、それでも物語とその背景が現実の歴史から影響を受けていることは認めなければならない。アラゴルンは南のゴンドールと北のアルノール、二つの王国の王位を継ぐ資格を持つ王として帰還する。このうち、北方のアルノールは兄弟の不仲から王国が三つに分裂し、弱体化して滅亡している。一方のゴンドールは高雅な文化を保ちながらも東からの脅威に直面し、風前の灯火である。それぞれフランク王国ビザンツ帝国を連想するな、というほうが無理だ。この両王国を統一する王が帰還し、西方世界に秩序を取り戻すのは、まるでローマの再興と聖地の奪還に失敗した西欧の奔放な夢のように思えてくる。

 これだけだと例が少ないし、東欧や中国、インドやラテンアメリカではどうなるのか、といった情報がないと、傍証としてはあまりに不足している。韓国のベストセラー「ムクゲノ花ガ咲キマシタ」では、韓国と北朝鮮が日本を占領する場面が出てくるらしいが、これは南北の統一と、東アジア諸国の中では中国を除いて自分が一番の兄貴分でありたいという願いのためだろうが*3、この一冊だけでは根拠としては不足だ。

 国際的にこの仮説を検証するためには、相当広い範囲の未翻訳のエンタメを狩猟しなければならないので、明確な結論は当分出せない。ただ、各国の仮想戦記研究と近いことをやるのかもしれない、と漠然と思っているばかりである。

 

 以上。

 

*1:先住民とは悪意ゆえに共存できなかった面もあるし、善意と敬意を持って接していたケースでも、当時の医学では避けられないユーラシア由来の伝染病が猛威を振るっていた。

*2:関係ないけれどこの邦題、リングが単数形なのがいまだに納得できない。指輪は複数あるはずだ。

*3:753年、長安の大明宮における朝賀で、遣唐使大伴古麻呂新羅の使者と席次を争う事件が起きているので、たぶん東アジアにおけるこうした対立意識の歴史は長いのだろう。