「シーンの切れ目に仕掛けのあるSFを書いてください」実作の感想、その1

 土曜日と日曜日に旧友と淡路島を電動アシスト自転車で一周したので疲れている。それはもうべらぼうに。

 

渡邉 清文「こわれたカメレオン」

 とにかく視覚的に美しい。

 この都市の文化や食事がイスラーム風でありながらカーニバルというキリスト教圏の言葉が用いられているけれど、気にすることではないはずだ。登場人物たちの名前から考えて、国籍や文化の多様な人々によって植民された世界なのだろうから。

 変色障害の設定も秀逸。特に、変色障害を持つ人間に対して、カメレオン族が本能的な嫌悪を感じるというところが素晴らしい。童話のような世界でありながら、人間の異質なものを排除する本能的な醜さを、きっちりと書いている。

 惜しむらくは、それを突き詰めて、何で変色障害を起こした人間に対して嫌悪を持ってしまうような遺伝子を残してしまったのか、といったSF設定を掘り下げていなかったことか。そんな変異消しちゃえばいい気がするが。こういう差別的な行動をとっさに取ってしまう性質にする合理的な理由ってあったのだろうか。特に無いのだったら、人類の子孫ではなく最初からそういう体質を持ったエイリアンにするとか、SF色をもっと抜いてファンタジーにするかしたほうがいい気がする。

 あとは登場人物が多すぎるので、取り巻きは名無しのままでもいいかもしれない。流し読みをすると覚えきれない。

 

安斉 樹「推しのいない世界」

 主人公がちょうどいい感じに間が抜けていて、愉快なバカSF*1に仕上がっている。

 ただ、欠点かどうかわからないけれど、これって要するに自分の熱意が原作者に認められてコラボするっていう話で、オタクの願望充足に特化しすぎている気はする。読者がオタクならわかるわかる! って楽しいし、オタクが嫌いなら、そこをすごく嫌がるだろう。ただ、全員から好かれる作品なんてのはありえないので、この辺は気にしなくていいと思う。

 あとは、最初の世界の時点で、原作者が自分と同姓同名だったら、何かそこに仕掛けがありそうって気づかないだろうか? それとも、これもまた主人公の愛すべきお間抜けっぷりを強調するため?

 それと、これは大沢在昌の「売れる作家の全技術」にあったのだけれど、実在する架空のキャラクターを扱うのは難しい。どういう問題点が発生するかについては、その本を参照してください。

 

結果予想

 で、今回の成績だけれど、個人的には「こわれたカメレオン」が金賞、「推しのいない世界」が銀賞だと思う。こっちのほうが書きなれている感じがあるし。ただし、審査員がオタクぞろいだったら、「推しのいない世界」がかなり追い上げる可能性がある。

 

 以下、その他の作品。

 

天王丸景虎「コキュートスの玉座

 ぜひどこかで実作を掲載してほしい。期待しています。

 

稲田一声「ひとりが祈る、ふたつに割れる」

 シーンが変わることで、視点の人物が変わり、物語が進んでいく。使うのは難しいテクニックではあるけれど、この作品では割と使いこなせている気がする。コップが割れることで誰かの死を知る、という古い迷信を逆転させるラストも秀逸で、奇妙な味の作品として成功していると思う。一見穏やかそうなタイトルなのもまたいい。「世にも奇妙な物語」あたりで映像化したら面白そうだ。予算の都合で舞台は火星ではなくなってしまうだろうけれど*2

 

今野あきひろ「206号の告白」

 内容については、二人で頑張ってつらいループを終わらせたって感じでいいのかな。

 今野氏については、作品単体で見ていくよりも、今までの作品との関係で見ていくとだいぶ見通しがついてくる感じがあって、これは僕が論理的に考えた結論じゃないんだけれど、なんだかんだで結ばれることが運命づけられているカップル的なモチーフが好きなんじゃないかって気がしている。「おまえたちは、犬のように吠えたのか?」でもそうだったし。

 とはいえ、「おまえたちは、犬のように吠えたのか?」でもそうだったのだけれど、宇宙人という存在を物語のオチ要因というか解決役としてちょっと都合よく使いすぎている気がしないでもない。宇宙人の役割がなんでもできる神様と同じなら、宇宙人である必要がないのでは?

 

甘木 零「ひかり降る部屋」

 学生時代の、何よりも貴重な時間を丁寧に掬い取った作品。こういう感じの短編漫画が僕は結構好きだったりする。文体も好き。

 ただ、僕がうかつな読者なのか、背後にある具体的な設定がはっきりとはわからなかった。何か、人間ではない知性を持った存在が、別世界で何らかのシステムの一部として奴隷的に使用されていた。知性はそこから逃亡した。そこで人間たちのあたたかさに触れて、人間のために働くことになる。それは原子力発電所廃炉か何かで、今後電力は衛星軌道上のシステムから賄われる。この知性は、そこで人間のために奉仕し続ける。そういうことだろうか。

 結局のところ、この知性体は、元々は何者だったのか。それと、こちらの世界に逃げてきたのに、また厳しい労働に従事させられて本当に幸せだったのだろうか。それを問いかけるために、著者はこの話を書いたのだろうか。あるいは、難民を労働者として受け入れてはいるけれど、結局はつらい労働に追いやっている、それもやりがいという美名のもとに、という話なのか。そのあたりは、ちょっと聞いてみたい気がする。

 

 以上。

*1:褒め言葉です。

*2:この話の舞台が火星である必然性はあまりないかもしれない。とはいえ、火星が舞台なのはロマンがあるので、ロマン枠ということでありだと思う。