『「100年後の未来」の物語を書いてください』実作の感想、その2

 

 今回も敬称略で。ダールグレンラジオも応援している。

 

■岩森 応「ハンデキャップ」

 価値観の逆転という王道を行く。ストーリは面白い。

 以下問題点。閉じ込められた少年ココやその母ルナミという固有名詞が何の説明もなく出てくるので、一瞬誰なのかがわからなくなる。特に、いきなりルナミ視点に切り替わるのはいたずらに混乱を招く。一つのシーンでカメラの場所を別の人に変えない方がわかりやすい。

 それと、細かいことだが、差別をテーマにした作品でいきなり「非人」という言葉を使うのはどうなのか。この言葉には、身体障害とは別の長い差別の歴史が絡んでおり、ここを気にする読者からすればそこが目についてしまって作品に入り込めなくなる。第一、デリケートすぎる。「人間じゃない」という表現に改めればほぼ解決するので、差別をテーマに書くならもう少し現実の差別に注意を払ってほしい。これは言葉狩りというよりも、読者をより物語に没入させるためのテクニックだ。

 それと、プロローグはなくても話が成立すると思う。僕なら削る。エピローグも唐突すぎるというか、結局シュウとサガラはどうなったのかが、わからないままだ。誰が主人公だったのかがぼやけてしまう。

 あと、全然関係ないけれど、奈良県の方言にも「~べ」ってあるのね。勉強になった。

 

■武見 倉森「いずれ不幸になる子どもたち」

 とてもユニークな世界観。こういうの好き。ただ、ここで育った子供たちがどうして銃やうそ発見器という概念を持っていたのか、それにパッチの存在を知っているのか、違和感があった(結末でちゃんと彼らが何者なのかが示されるので伏線としては成功している?)。

 それと、どうして彼らはここに閉じ込められて過去の記憶を失っているのとか、まだよくわからないところが二三か所あるの。最後に出てきたユニオンは不死化と恒久平和を実現した世界政府だろうか。それが、この世界の成立にどのような影響を与えたか、もうちょっと暗示してもいい、かもしれない。

 

■村木 言「〈九十九〉たちの葬列」

 とても好き。リーダビリティも非常に高い。梗概では〈九十九〉の正体というか、このストーリーでは何を表現しているか読み取れず、雰囲気と感傷だけのものになるのではないかと危惧していたが、ゆがんだ場所で育てられた少女が出会う、異質な知性とのふれあいの強い物語へと大化けした。最後にアオニがどうやって〈九十九〉になったのかはややあいまいだが、そんなことを気にしなくてもいい気分にさせられる。

 

■九或「サンムトリの伝記」

 最初、どういうつもりでこういうスタイルにしたのかがよくわからなかったのだが、読み終えて梗概を改めて見返してみると、意図がつかめた。これが百年後に読まれていることになっている、というメタフィクションなのね。この発想はすごく面白いし、百年後の予測は外れる、というテーマとも絡んでいる。

 ただ、もうちょっとストーリーが頭に入りやすくなっているとうれしい。とりあえず段落の最初の文字をスペースにするだけでも、ずっと読みやすくなると思う。

 

■宇露 倫「国桜(くにざくら)」

 男のヒューマノイドが人間を妊娠(?)している絵がまず面白い。

 心配していたのは、著者が自分の病をネタの一部にしている(と思われる)ので、著者の自意識が前面に出てくるのではないかということだった。うれしいことに、これはまったくの杞憂だった。心の温まるいい作品に仕上がっている。まずはこのことで、大きな金星を差し上げたい。

 ちょっと気になったのは、トレバーのつづりがTrevorではなくTleburになっていたことで、この理由がわからない。前者は人名、後者はドイツの地名Treburと一文字違いだ。意味があったら申し訳ないのだが、誤りだとしたら直してほしい。SFというのはひとつの別世界の構築なので、こういうちょっとしたミスがあると世界観が揺らいでしまうことがある。

 

 今朝はここまで。帰ってきたら残りの分が書けるだろうか。日曜日と月曜日には、ちょっと用事があるのでなんとか終えたい。