「「何かを育てる物語」を書いてください」実作の感想、その2

 出かける予定が潰れたのでのんびり読めるはずなのだけれど、何となしに集中できないのでちまちま読み進めている。

 

品川必需「排泄する、ヒニョラのいる風景」

 こういうとぼけた家族ものは好きなんだけれど、多分梗概のほうが面白かった気がする。ヒニョラを買っているのはお父さんで、主人公の女の子があまり積極的に育てている印象がないので。

 

式「あなたが生み落としたのは金の斧の文明ですか?」「それとも銀の斧の文明ですか?」

 とぼけた味わいがある。シムアース的なというか、最近はやっている「三体」作中のゲーム的なというか、箱庭的世界の楽しみがある。この手の話はどこまでも長くできるし、逆にもっと短くすることもできるだろう。オチも結構よかった。自由意志のないところに信仰はない、という深淵な話をしているんじゃないか、って思わせる。

 ただ、槍を持った原始人が喋れないってのはどうなんだろう。とりあえず見つかっている最古の槍は50万年前のホモ・ハイデルベルゲンシスのものらしいが、どうも彼らは喋れたようである*1。というか、ある程度の精密な道具の加工を言語なしでやるのは厳しいような……。

 

村木 言「亡霊聖都エル・アレフ

 「闇の奥」的なプロットで、彼らは何に遭遇したのか。面白い。

 ただ、これは好みの問題だけれど、この人はやっぱりSFよりファンタジーの人なのだな、と思う。『上側頭溝と内側前頭前野の異常な活性を確認。』、みたいにハードよりの台詞を出してはいるものの、具体的に〈不死の書〉とは何か、人の認知機構にどのように割り込んでいたのか、などの機構が曖昧にされている。これはハードSFをやたら高く評価する自分の傾向なので、無視してもかまわない。台詞かっこよかったし。

 

九きゅあ「ワカメス」

 ワカメの世界がどのような立体構造をしているか、じっくり読みこまないとイメージしづらかった。

 それと、ゲームを元にした比喩が多く、人名もゲーム由来で、ゲームやらない人が置いてけぼりになる気がする*2。たぶん落ち物ゲームアンソロジーに入っていたら評価されるんだろうし、文体がゲーム好きな人が喜びそうなタイプなので、悪くはないと思うのだけれど、設定が若干甘い気がする。そもそも「ワカメス」って名前、あまりかっこよくないし……*3

 

宇露 倫「Touch the Calen」

 多分梗概よりもずっといいと思う。身体に何らかの不自由があっても、できることはきちんとやっていこう、夢に進んでいこうという思いがこもっている肯定的な作品。免疫不全があるにしては、けがをしてからの化膿の進行が遅い気がしないでもないけれど、医学は僕の専門外なのでよくわからない。

 あえて言うなら義理の両親の物分かりが良すぎるところが問題か。もういっそ太陽が出る時間ぎりぎりまで殴り合うくらいの勢いがあってもいいかもしれない。あと主人公の名前が出てくるのがちょっと遅いかも。

 

 以上。

*1:英語版のウィキペディア「Spear」「Homo heidelbergensis」を適当に拾い読みした情報。

*2:落ち物ゲームやらない個人の感想です。

*3:人のこと言えない。僕も小浜氏に「タイトルのセンスがない」とよく言われる。