「読んでいて"あつい"と感じるお話を書いてください」実作の感想、その2
もっとお盆休みが欲しい。
■今野あきひろ「続シロクマは勘定に入れません(輪るシロクマ・パンクラップミュージカル編)」
前回と比べて、登場人物がこれから何をしようとしているのか、どんな目的で行動しているのかは読み取りやすくなった。畳みかける勢いも相変わらず健在。ただし、著者が適性を使いこなしているというよりは、自分の持っているエネルギー、とにかく自分の世界観を語りたいという感覚にまだ振り回されている感じがする。もしも、才能と出力を適切にコントロールできているとすれば、規定字数の倍近い長さにはならないのではないか。飽きさせないのは間違いないが。
■よよ「雪恋」
火星のような世界で、自分の中に好きな人がいて、好きな人の中に自分がいるとい感覚をふんわりとまとめている。どこからが夢なのか、もう少し明確に表現したほうがわかりやすいかもしれないが、夢のような印象を与えることには成功しているので、どちらがいいかは判断が難しい。
ただ、この生き物たちは人類の子孫ではないのだとすれば、蜘蛛のような、という地球の生き物に由来する表現は削ったほうが、異世界感があっていいと思う。
それにしても、「愛はさだめ、さだめは死」を読んだうえで書いたのかな?
■品川必需「アラサー魔法少女 またみ・たみたみ」
脱力した。たぶん作者の狙い通りに。
それにしても、どうして途中で人称を変えたのだろう。特に必要だとは感じられなかった。劇中劇にするつもりだったのか、という気もしたが、ストーリーからはそうする必然性が別に感じられなかった。
関係ないけれど、rastyはrustyのスペルミス? それと、歌詞の引用はセーフ?
■式(仮)「清水さん、オーバーヒート!」
ヒューマノイドの細部に立ち入ることなく、キャラクターの掛け合いで話を回すことに成功している。
言及される神々の名に統一性がないが、難易度を上げすぎても娯楽としてよろしくないので、多分こんな感じでちょうどいいのだろう。
あと、個人的な感覚だと、最後にプールで水蒸気爆発が起きた、見たいにしたら爆発オチみたいで面白かったかも。
■岩森応「M.I.」
イラストを趣味にしている友人がいて、彼は「皮モノ」というジャンルが好きらしい。どういうのかというと、例えば女性の皮膚の形をしたスーツを身にまとうことで女性になり、ときどき外れなくなって女性から戻れなくなったり、スーツの中で女性に強制的に変身させられて戻らなくなったりする、みたいなシチュエーションなのだそうだ*1。作者はそこから着想を得た、なんてことはないのだろうか。
それはさておき、舞台がまず地球でないことに面食らった。なるほど、こちらが気づかずに侵略してしまうタイプの侵略SFか、と気づくとよくわかるようになったのだが、そうとわかるのに時間がかかった。それと、よその惑星が舞台だと、いくつか問題点がある。
まず、磁気テープを人類が宇宙に飛ばしたことがあったかどうか。次に、狂信者が着ぐるみテロを仕掛ける動機が不条理。それから、よその惑星が舞台なので、S市みたいにイニシャルを使う意味がない。同様に、21時みたいに時刻を示すのに地球の習慣を使うのではなく、日没や日の出などを使ったほうがいい。ついでに、固有名詞にカタカナが多く、宇宙人の名前なのかNHKの着ぐるみの名前なのかが、「おかあさんといっしょ」の熱心なファンでない限り初見ではほぼ確実に混乱する。というか、NHKの着ぐるみの名前を無許可で使って大丈夫なのか、みたいなのもある。
■武見倉森「太陽を呑んだ男」
暑苦しい文体にすることにはそれなりに成功していると思う。ただし、ほとんどが事後報告的であって、物語性をあまり感じない。お話を聞いているのではなく、新聞記事を読んでいる感じだ。もちろん、そういうタイプの小説があるのはよくわかっているのだが、これは狙ってやったのとは少し違う気がする。というか、肝心の太陽を歓喜と共に飲み込んでいくシーンがほんの数行で済まされており、そのあと人類はどうなった、みたいなのが全然書かれていないのも惜しい。
■村木言「神さびた黴」
素晴らしい。これが優勝でいいのでは? 梗概にあったようなよくわからない理由による単純な滅亡ではなく、小松左京的な、きっちりと歴史的に正確で、年代さえ特定できる舞台設定の宇宙SFに仕立てることに成功している。この時代の人間が多次元とか文明とか言った言葉を使うかどうかは疑問だが、小松左京だってそのくらいのことは割と平気でやっているし、その辺はご愛嬌だろう。ラストに古文書を持ってきてこの世界とつなげるテクニックも効いている。
以上。
*1:詳しくないのでもっと知りたい人はpixiv百科事典かなんかを参照してください