2019年度ゲンロンSF創作講座第9回「ファースト・コンタクト(最初の接触)」実作の感想、その4。あと、ツイッターのリプライ、滞っています。すみません。
宇部さんの作品は「おっとり」として「おとなしい」印象を受ける。
— 式くん (@11011_11010) 2020年2月16日
淡々と進めるならもっと叙情的な表現で書くか、「設定」をぶっ飛んだものにした方がいいかも。
宇部詠一 - 君の声は聞こえる。僕の返事は届いただろうか。 https://t.co/QgVKcWHkor #SF創作講座 @genronschool
金曜に全梗概読んだけど実作はひとつも読めてなくて、今野さんの実作の好評がTLにも流れてるのを見て「私が初めに褒めたかった!」と思ったので今晩から読みます。
— 甘木零 (@cobol_amaki) 2020年2月16日
宇部さんは「仕掛けに凝る」から次第に「好きな物を書く」にシフトしてると思ってたのですが、第9回は特に情熱こもる感じ。楽しみです
ああ、そうだ。個性が足りないんだ。
自分が何が好きかをよく考えて、その分野を丸ごとSFに投入しないといけないんだ。
単純なハードSFを書こうとするからいけないんだ。よほどのことがない限り、例えば単純なファーストコンタクトは現代においては成立しない。
求められているのは作家ごとの強烈な個性、この人の作品じゃないとえられない感覚というブランドだ。自分にしか書けないもの、一読して自分が書いたものだと了解させられるだけの、オリジナリティ。
ゆったりとした気分、これは個性となりうるだろうか。それとも、もっと文体に磨きをかけて、そこで勝負をするべきだろうか。なんであれ、自然科学だけではない、別の情熱を持った分野をどんどんぶち込んで闇鍋を作っていこう。これしかない。
以下本題。全員の実作読み終わった。よく頑張ったぞ自分。
■九きゅあ「カオダシたちの神隠し」
冒頭のゲームは「タブーコード」だろうか。あれ面白いよね。
この人は、ゲームを小説の中でやりたいのだろうし、そうしたいのなら反対はしない。けれども、個人的にはゲームよりも心理戦をやったほうがいい気もする。「炎鬼 太陽脱出デスゲーム」みたいな。
作品そのものも素直に読める。
ただ、やはり原作が偉大過ぎるので、マカオとかラスベガスとか言った現実的な地名が出てくると、違和感は隠し切れない。まったくの別世界でありながら身近な要素もあった、ジブリの世界にどのようにつながっていくかを、読者としてはうまく感じられない。「千と千尋の神隠し」が元ネタになっていることは、やっぱり隠しておいたほうがいい。講評でも出ていたけれど、原作を超えるか全く別の観点から再解釈しないと、読者からの評価は厳しくなるんじゃないだろうか。
■宇露 倫「Last Resort」
相変わらずうまいんだよなあ。憎たらしいくらいに。
アクションだけじゃなくてこういう抒情的なのも書けるんだもの。死後の世界というか、こちらではない別の世界を丁寧に考えたことがない人にしか書けない作風。それと同時に、いかにして親を含めた守護者から肉体的にも精神的にも依存しなくなるか、その庇護下から抜け出すかが、実作での一貫したテーマで、それが話全体を面白くしている。もう一つのテーマは、もっと広い世界を見てやりたいという望みだ。
ジョンが何者だったのか、これは明確に書かなくて正解だった感じ。読み取れるはず。
■藍銅ツバメ「神殺し」
小学校の頃に戦場ヶ原に行った。で、そこのミュージアムで大百足と蛇の話を展示していたのをはっきりと覚えている。日本の神様って、そういう大きな獣の姿になるよね。三輪山の神様とか、ヤマトタケルが出会ったイノシシだとか。こういう伝説が生きている感じは大好き。
でも、話そのものは面白いんだけれど、元となっている戦場ヶ原の話は割とメジャーだと思うので、モデルがわからないようにしたほうがいい*1。タイトルも「神殺し」ってのは、いつもと比べて安直な気がする(失礼)。じゃあどうすればいいのかって言われても困るんだけれど。
■松山 徳子「遭遇の路」
宇宙探査船もの。
少し理屈っぽくて説明的に過ぎるかもしれないが、語り手が人間ではないのでこれもありかもしれない。
あらすじとしては、知識でしか人間を知らない人工知能が本物に人間の肉体に触れ、それを壊してしまい、心を病んでしまうというユニークなもの。おもしろい。
ところで、どうして生の人体が浮かんでいたんだろう。それがざっと読んだだけでは読み取れなかった。それに、どうして探査船はマトリョーシカ状になっていたんだろう。絵としてはすごく面白いんだけれど、実際問題、中心に核となる人工知能をセットしておいて、周囲が傷ついたら脱皮していけばそれで済むような気がしないでもない。
■揚羽はな「こころの耳」
児童文学っぽくきれいにまとめられている。左心耳でコミュニケーションをするってのは科学的にはあり得そうにないのだけれど、そんなことはどうでもいい。社会に上層と下層がいて、それが一つのきっかけで逆転するってのもありがちではあるのだけれど、これは王道パターンで表現して正解。王道のいいところは説明を省けることで、この話で一番見せたいのは、ファーストコンタクトそのものというよりも、二人の友人の関係の変化だろう。なので、それ以外のところは多少紋切り型でもいいし、そのほうがかえっていいケースもある。
たぶんこの人は、科学的な厳密さを求めるよりも、こういう感情に訴えかけるというか、人間関係を軸に話を組み立てていくほうが、目標としているタイプの「リフレッシュできる、明るく楽しい」SFに近づけるはずだし、実際に向かっている。「マイ・ディア・ラーバ」もよかったので、そういう長所を伸ばしていくといいと思う。
以上。
昨日夜の新幹線で帰ったので眠い。午前半休取ればよかった。