ゲンロンSF創作講座実作「アーカーシャの遍歴騎士」振り返り
■あらすじ
児童ポルノを削除する人工知能が、少女の美を理解させるウイルスに感染する。そのウイルスを作ったのは、かつて18歳以下のヌードを恋人に撮らせた女優・美恵と、人工知能のベースとなった今は亡き人物・憲治であった。人工知能は、その美を理解しつつも、倫理のため苦痛のうちに画像を削除しつづけることを選択する。
■自分で読んだ感想
サブプロットがないので長さはこの程度に収まっている。ちょっとした小品。全体的に伊藤計劃「From the Nothing, with Love」の影響が濃厚。一本のまっすぐな筋があるだけなのでさっと読める。大きな破綻はない。
ただ結末は普通かな。ありがち。正しさに殉ずるってのは悪くないし、主人公がオリジナルとは違う決断するのもありだと思うのだけれども、SFにはこういうロリコンである自分*1について徹底的に考える作品が結構あるので、そこに肩を並べるのはなかなかに難しい。その水準にはとても至っていない。一万字に満たない作品だからしかたがないとはいえ、もっと意表を突く結末が欲しい。とはいえ、この条件で強く正しいヒーローにするには法に従うしかない。
ちなみに星新一賞に出して落選した*2。確か新人賞にふさわしい新しさはにない。なんかのアンソロジーに入っているならともかく。
あとは細部。「と思われる方々も多いと思われるのだろうが」という箇所は、いったい誰に語り掛けているのか。また、女優である美恵がどうして憲治の人格をもとに検閲官を作り出すことができたのか。そうした技術的細部が曖昧だ。後述の、恋人の写真で人工知能に意識が生まれるというのも、設定と理屈がよくわからない。どうも自分の十代の初恋的なものに対するあこがれが暴走しているようだ。
結末の未練たらたらに心が血を流す箇所も自意識が漏れ出している気がしてならない。
■第三者からの感想
梗概:面白くなる可能性はあるが、焦点がずれている。たとえば、AIと元人格の関係があいまい*3。インパクトが弱い。自我を持つかどうかもはっきりしない。それと、性別の設定についてはこれで良かっただろうか。
実作:講師からは次の通り。テーマに合わせて絞り込んで短くまとめた印象がある。焦点がぶれるためサブプロットを省いた判断は正しい。1点獲得。なお、小浜氏は「創元SF短編賞は、説明的に過ぎるものと、一人称饒舌体のものは評価しない」と述べているので、一人称は避けたほうがいいかもしれない。最終実作で大コケしたのもそれが理由ではないか。
同期からはもっとハードな作品が書きたいのではないか、講師に寄せ過ぎではないか、と。
■まとめ
- 一人称は避けたほうがいい?
- もっと意外な結末を! 常識外れの驚きを!
- 無理して社会派に寄せなくていい。
- ハードSFのほうがいい。
- やりたいことをやろう。
- 十代の初恋的なもの*4に対する未練は断ち切る。
■メモ
一人称作品の数:6*5
三人称作品の数:4
ただし、だらだらと感傷的に、饒舌に限りなく一人称に近い三人称もあった。
なので人称よりも文体のほうが問題か。