ゲンロンSF創作講座実作「縮退宇宙」振り返り

■余談

創元SF短編賞の最終選考に受かった当時はテンションが上がりまくっていて、「よーし2か月に1本の短編を書いて1年で本を出すぞー」みたいな空想にとらわれていた。正直言ってしんどいペースだし、そんなことよりもクオリティの高いものを半年や1年に1編ずつきちんと出すのがずっといい。というか、商業誌に載せられるレベルの短編を半年に1度って相当すごい作家だよ。

 

なお、前回に記事には書かなかったが、この振り返りではハッシュタグ#SF創作講座は使わない。個人的な備忘録だし、今受講している生徒の役に立つ情報は少ないだろうからだ。

また、どちらかと言えば否定的意見を多めに扱う。これは自分を鍛えるためのメモだからだ。本当に次回作を書く決心はまだついていないが、傾向はつかんでおきたい。

 

さて今回扱う作品のリンクは次の通り*1

縮退宇宙 | 超・SF作家育成サイト

 

■あらすじ

宇宙飛行士の娘は、自分が人工的に作られた宇宙にとらわれていたことを知る。そこから脱出すると、人工の宇宙を作り出したのは母であったとわかる。母に激昂するも、母は宇宙と娘を救おうとしただけだと知る。母の姿勢に理解を示しながらも、娘は自由になるため外に出る。

 

■自分で読んだ感想

登場人物の名前に困ったからって「失われた時を求めて」から適当に取るのやめなよ。フランス語で「くそったれ」ってどう言うかをひけらかすのもやめなよ……。

あとは、ジルベルトが古典物理学の適用される宇宙に閉じ込められていることに気づく手段がかなりいい加減だ。自分が何となく電子の意志を予測できるからシミュレーション宇宙だ? それにシミュレーション宇宙からの出口がブラックホールだと確信するまでが早すぎる。ハード目の作風なのだからそこは論理展開をしっかりさせるべきだ。第一、量子力学がなければあらゆる原子は電子が原子核に墜落することであっという間に崩壊するし、量子論の証拠であるブラックホールの蒸発くらいならシミュレーションすればいい。ハードなことをやろうとしている割には詰めが甘い。その割にポアンカレ予想だとか宇宙の種数だとかいう用語が説明もなく放り投げられていて不親切だ。一方、宇宙で初めて自由意思が生まれる瞬間も、サイエンスではなく情緒でごまかしている。つまりどんな読者を想定して、どれくらいの難易度を設定するかができていない。宇宙を潰す原理も不明確だ。

また冒頭でいきなり会話が始まるが、母と娘の関係というよりも前提を説明する議論だ。宇宙論に詳しくなければ読んでいてつらいだろう。

あとは母と娘の関係はどうしても形にならない。片方が男性ならともかく、両方が女性なのは難易度が高すぎた。自分の書かない荒っぽい女性を描くという意味では挑戦できた作品だが、概して失敗が多い。母と娘の和解も早すぎる。

 

考えてみれば「ニルヴァーナ守護天使」とも共通する話だが、共通点として両親との関係が良好、少なくとも改善するに着地することが多い。これは善良で穏やかな作品になる一方で、過度に支援的な親だとストーリーを作りにくいし、甘い作品になってしまう。

登場人物の年齢を下げたほうがいいと感じさせる一因な気がする。

 

とはいえ、設定と論理展開を練り直して書き直したい気持ちもある。SF作家なんだから一度くらい宇宙を潰してみたい*2

救い出せそうな熱いシーンもあった。寿命が無限の世界から有限の世界に飛び出すところ、あれは「プランク・ダイヴ」の影響だろう。

ところで、シミュレーションのなかのシミュレーションにいたのではないか、という疑惑について論じるシーンがあるが、ここでは小説の中の小説を扱った「アムネジアの不動点」でやろうとしていることの萌芽が見られる。

 

■第三者からの感想(いろいろな人のコメントを混ぜてます)*3

圧倒的なスケールの大きさと親子喧嘩の小さな話を対比させるのが面白い。

もうちょっと長くてもいいかも。

冒頭の台詞が説明的に過ぎる*4。読者を引き込むには弱い。人数が少ない対話劇においては、やり取りで面白がらせる必要があるが、それに失敗している。それと、フランス語の使用が過剰でうっとうしい。

話を成立させることでいっぱいいっぱいで、つかみがあまりにも弱い。

一般的な読者は下手をすれば三行でやめてしまう。そうした読者に対するサービスを考えてほしい。ついでに、この作品に限ったことではないが、何の話か中盤まで読まないとわからない作品が多い。

 

■まとめ

  • 論理展開をいい加減にしない。時間をかけてプロットを練ること。
  • つかみが大事。
  • 議論だけで話をすすめない。
  • 文理問わず知識のひけらかしはしない。
  • 何の話か冒頭ですぐわかるように。
  • 対話で面白がらせること。
  • スケールが大きいのはいい。
  • 親が優しいがこれでいいのか。

 

以上。

*1:さっきは1週間に1本のペースと書いたけど、やる気があったので今日書いておく。

*2:余談だが、高温になれば生命のクロック数が上がると初めて読んだのはどこだったっけ? そこではクロック数は温度に比例すると書いてあったか、指数関数的だったか、覚えていない。

*3:誰の発言かは過去の記事を参照してください

*4:やっぱり!