ゲンロンSF創作講座実作「できることなら、もう一度白夜の下で」振り返り

■あらすじ

できることなら、もう一度白夜の下で | 超・SF作家育成サイト

シミュレーション世界の中で目覚めた主人公は、そのシミュレーションの中であこがれの先輩と設定されたキャラクターと恋愛関係になるよう、コンピュータから迫られる。さらに、人間とシミュレーション人格の見分け方を見つけろ、とも。主人公は論理的にコンピュータの故障を明らかにし、コンピュータを任務から解放する。憧れの先輩とは別れるが、再会を予感させて終わる。

 

■自分で読んだ感想

記憶が曖昧で、自分が読んでいた本の名前どころか、すべての人の名前さえ忘れて行ってしまう世界はユニークかもしれない。

それにしてもまったく。憧れの先輩へのうだうだした思いでいっぱいだ。こういう感傷的な傾向をコントロールしきれなかったので、最終実作でこけたのだ。

このセンチメンタリズムを武器にするのは難しいだろうし、武器にできるとしたらそれは垂れ流すのではなく、明確なコントロールをこちらが握ったときになるだろう。

なお、ゲームの中の世界的にしたのには特に理由はない。ゲームはほとんどプレイしたことがないし、学生生活をシミュレートする系統のものは全く経験がない。プレイ動画をちょっと見たくらい? 何を血迷ってこういう方向性を選んだのか、自分でもよくわからない。しかも意識の有無の判定をするゲームには敗北するし、女の子から何もしないで好意を向けられるなんて不自然だとは思わなかったか、とツッコミを入れられる。ある意味ゲーム的お約束への評論ともいえなくもないが、ゲームをやったことがない人がやってどうすんだ。

あとは、やっぱり主人公の謎解きがその場の思いつきっぽくて気に食わない。伏線が足りない。感傷的な雰囲気を作ることを優先してしまっている。小説の主役はキャラクターとストーリーのはずだ。著者自身が雰囲気に溺れているから伏線が甘いのだ。一応伏線らしきものを張ろうとした後はあるが、読者を納得させられるほど十分に論理的だとは思えない。

というか、人工知能が課題を「憧れの先輩と恋愛関係になる」に加えて「NPC哲学的ゾンビ)かどうかを判定する」を追加したのはなぜだ? ストーリーも行き当たりばったりだ。一応梗概を考えたはずなのに、ストーリーが一番読み取りにくい。どうも最終回に向けて迷走している気がしてならない。それでも2点獲得。理由は……確か感じられた可能性について。

 

ちなみに読んだ人にはわかりにくかったと思うけれども舞台はお茶の水から神保町の一帯が舞台で、正教会の寺院はニコライ堂のつもり。駅も御茶ノ水駅。なのに、なぜか高緯度のような白夜のような現象が起きている。

ところで確かこの作品を書いているうちに、御茶ノ水駅の工事がされていたはず。今はどうなっていることやら。

 

■第三者からのコメント

饒舌体が身についておらず、どっちつかずという感じ。とはいえ、自我がはっきりせず離人感のあるところは面白いので、そこを長所として伸ばすのがいいのではないか。実は宇宙船のほうが夢であるとか、非現実のものであるかもしれないというあいまいさがあり、そこに特化したほうがいい作品になる。

自分が書かれたものかもしれない。自分は存在しているかどうかがわからない。テキスト的なもの、メタ的なものであるという可能性を追求しているが、このままではありきたりである。こういうのはもっと洒脱にやるべきで、ディティールにも魅力が欠けている。

特に会話に魅力が欠けていて、キャラクターの会話が情報を伝えるだけの機能を担っているだけ、つまり事務的。会話をしなければならないからしている感じがあり、もっとサービスする必要がある。

これだけだと、ごくありがちな設定なので工夫が必要。

 

また、青年と先輩を「学園」でであわせると、ちょっとギャップがありすぎのような気がしました。戦場と学園の間と、想定年齢がマッチしていない。でも妹(AI)に対する思いやりや、先輩の前での自信ある態度はいい。

 

世界観が透明できれい。特に、トンネルの中の星空が美しい。全体的なテンポが速いところとゆっくりなところがあるといい。緩急が欲しい。

 

他にもテンポが遅いという感想あり。

 

■まとめ

  • 離人感はいい。
  • しかしこのままでは設定がありきたり。メタ的なものにしては洒脱さが足りない。
  • 素の自分で書いてもだめっぽい。
  • 会話に魅力がない。しなければならないから会話しているみたい。事務的。
  • 年齢が合っていない。
  • 伏線の張り方がいい加減。
  • キャラクターとストーリーが弱い。
  • 緩急が大事。
  • テンポが遅い。
  • 主人公の思いやりと優しさが良い。
  • 一応成長がみられる。

 

以上。