ゲンロンSF創作講座実作「愛と友情を失い、異国の物語から慰めを得ようとした語り部の話」振り返り

■あらすじ

「愛と友情を失い、異国の物語から慰めを得ようとした語り部の話」 | 超・SF作家育成サイト

こちらを参照。

 

■自分で読んだ感想

確かにこれは言い訳がましい。着想そのものはけっして悪くはないのだが書き出しからしてよろしくない。

梗概が選出されなかった挙句の果てに非SFに逃げてしまった感じがある。方向性に迷って完全な私小説にしてしまっている。あるいは表現の自由と規制に関しての論理的でない、個人の気持ちの表明になっている。あるいは純文学への逃避? それとも一年間小説を書いてきた気分の最終レポート的なもの?

また当時のCOVID-19が猛威を振るっていた時代の感覚の個人的な記録としてはなるほどと思えるが、それ以上ではない。

楽しく読んだという方も多くいらっしゃったので感謝している。しかし、それは書くという行為を共有している人がほとんどだった。あるいは、自分のブログを読んでそれとシンクロさせて楽しんでくれていたみたいだ。小説という表現媒体でしかできないことを自覚的にやるためにメタ的な方法を用い、それを評価してくれた方もいらっしゃったが、オチが「よーし、つらかったけどまた小説を書くぞー」だけだと一般の読者へのアピールとしては弱い。

創作をしない人にも面白いと思ってもらえないと内輪受けになってしまう。

この小説を救い出すためには言い訳がましさを減らし、ラストも変える必要がある。

 

■第三者からのコメント

  • 構成は良い。
  • ダメさ加減は身近でリアル。現実サイドをもっとコミカルにしてもいい。
  • 言い訳がましい。楽をしてしまっていないか。
  • ですます調も楽をするのに使えてしまう。
    • 語らず示す!
  • 未来という設定が急に出てきたので噛み合っていない。
  • 主人公は何一つ変わっていない(最初に戻っただけ)。
  • 枠物語の内外のやり取りが弱い。
  • いっそのこと枠の外で「こう書く」とやれば枠の内側の読み方を誘導できたのでは。
  • 自己分析が甘い。
  • 異文化という舞台を理解してもらうのは難しい。
  • 登場人物がステロタイプ
  • もうちょっと異文化との加害/被害関係をプロットに組み込んでも。
  • 主人公に興味が持てず、失恋したとしても「ああそうですか」としかならない。
  • 主人公が自ら「こんなことがあって」と語りだすのは苦手。
  • 逆に主人公がもっとモテてもいい。
  • 読みやすい。
  • 女性描写がうまい。
  • ただしヒロインが「わたしにも内面がある」と主張するパターンを多用するのも考え物。

 

■全体を通してのツイート数での評価

作品の巧拙とは関係ないかもしれないが、後で振り返るのに便利なので残しておく。

 

タイトル ツイート数
 ニルヴァーナ守護天使 10
 縮退宇宙 8
 アーカーシャの遍歴騎士 13
 ミュルラの子どもたち 4
 アムネジアの不動点 4
 重力崩壊と私掠船、その船医と強欲な商人  5
 枯木伝 4
 君の声は聞こえるけれど、君には僕の声が聞こえない 7
 できることなら、もう一度白夜の下で 2
 愛と友情を失い、異国の物語から慰めを得ようとした語り部の話 24

 

以上。

ゲンロンSF創作講座実作「できることなら、もう一度白夜の下で」振り返り

■あらすじ

できることなら、もう一度白夜の下で | 超・SF作家育成サイト

シミュレーション世界の中で目覚めた主人公は、そのシミュレーションの中であこがれの先輩と設定されたキャラクターと恋愛関係になるよう、コンピュータから迫られる。さらに、人間とシミュレーション人格の見分け方を見つけろ、とも。主人公は論理的にコンピュータの故障を明らかにし、コンピュータを任務から解放する。憧れの先輩とは別れるが、再会を予感させて終わる。

 

■自分で読んだ感想

記憶が曖昧で、自分が読んでいた本の名前どころか、すべての人の名前さえ忘れて行ってしまう世界はユニークかもしれない。

それにしてもまったく。憧れの先輩へのうだうだした思いでいっぱいだ。こういう感傷的な傾向をコントロールしきれなかったので、最終実作でこけたのだ。

このセンチメンタリズムを武器にするのは難しいだろうし、武器にできるとしたらそれは垂れ流すのではなく、明確なコントロールをこちらが握ったときになるだろう。

なお、ゲームの中の世界的にしたのには特に理由はない。ゲームはほとんどプレイしたことがないし、学生生活をシミュレートする系統のものは全く経験がない。プレイ動画をちょっと見たくらい? 何を血迷ってこういう方向性を選んだのか、自分でもよくわからない。しかも意識の有無の判定をするゲームには敗北するし、女の子から何もしないで好意を向けられるなんて不自然だとは思わなかったか、とツッコミを入れられる。ある意味ゲーム的お約束への評論ともいえなくもないが、ゲームをやったことがない人がやってどうすんだ。

あとは、やっぱり主人公の謎解きがその場の思いつきっぽくて気に食わない。伏線が足りない。感傷的な雰囲気を作ることを優先してしまっている。小説の主役はキャラクターとストーリーのはずだ。著者自身が雰囲気に溺れているから伏線が甘いのだ。一応伏線らしきものを張ろうとした後はあるが、読者を納得させられるほど十分に論理的だとは思えない。

というか、人工知能が課題を「憧れの先輩と恋愛関係になる」に加えて「NPC哲学的ゾンビ)かどうかを判定する」を追加したのはなぜだ? ストーリーも行き当たりばったりだ。一応梗概を考えたはずなのに、ストーリーが一番読み取りにくい。どうも最終回に向けて迷走している気がしてならない。それでも2点獲得。理由は……確か感じられた可能性について。

 

ちなみに読んだ人にはわかりにくかったと思うけれども舞台はお茶の水から神保町の一帯が舞台で、正教会の寺院はニコライ堂のつもり。駅も御茶ノ水駅。なのに、なぜか高緯度のような白夜のような現象が起きている。

ところで確かこの作品を書いているうちに、御茶ノ水駅の工事がされていたはず。今はどうなっていることやら。

 

■第三者からのコメント

饒舌体が身についておらず、どっちつかずという感じ。とはいえ、自我がはっきりせず離人感のあるところは面白いので、そこを長所として伸ばすのがいいのではないか。実は宇宙船のほうが夢であるとか、非現実のものであるかもしれないというあいまいさがあり、そこに特化したほうがいい作品になる。

自分が書かれたものかもしれない。自分は存在しているかどうかがわからない。テキスト的なもの、メタ的なものであるという可能性を追求しているが、このままではありきたりである。こういうのはもっと洒脱にやるべきで、ディティールにも魅力が欠けている。

特に会話に魅力が欠けていて、キャラクターの会話が情報を伝えるだけの機能を担っているだけ、つまり事務的。会話をしなければならないからしている感じがあり、もっとサービスする必要がある。

これだけだと、ごくありがちな設定なので工夫が必要。

 

また、青年と先輩を「学園」でであわせると、ちょっとギャップがありすぎのような気がしました。戦場と学園の間と、想定年齢がマッチしていない。でも妹(AI)に対する思いやりや、先輩の前での自信ある態度はいい。

 

世界観が透明できれい。特に、トンネルの中の星空が美しい。全体的なテンポが速いところとゆっくりなところがあるといい。緩急が欲しい。

 

他にもテンポが遅いという感想あり。

 

■まとめ

  • 離人感はいい。
  • しかしこのままでは設定がありきたり。メタ的なものにしては洒脱さが足りない。
  • 素の自分で書いてもだめっぽい。
  • 会話に魅力がない。しなければならないから会話しているみたい。事務的。
  • 年齢が合っていない。
  • 伏線の張り方がいい加減。
  • キャラクターとストーリーが弱い。
  • 緩急が大事。
  • テンポが遅い。
  • 主人公の思いやりと優しさが良い。
  • 一応成長がみられる。

 

以上。

 

ゲンロンSF創作講座実作「君の声は聞こえるけれど、君には僕の声が聞こえない」振り返り

■あらすじ

君の声は聞こえるけれど、君には僕の声が聞こえない | 超・SF作家育成サイト

月面に取材に来たジャーナリストは、そこで科学者になった片想いの相手と、軍人になった同級生に出会う。主人公は片想いの感情に揺れながらも両者の立場を調停する。軍人が主人公に恋をしていたというエピソードを挟みつつ、無事エイリアンともコンタクトを取る。最終的には片想いの相手と結ばれるが、相手のほうが一枚上手であった。

 

■自分で読んだ感想

月面基地のアカデミックな(子どもっぽい?)雰囲気は悪くない。異星人がエウロパ近辺にいるので返事が比較的すぐに戻ってくるというのも設定として便利。ラストで銀河文明からのコンタクト希望リストが見えるのも楽しい。最近小説を書いていないのでこういうアイディア出しの勘が鈍っていそうで怖い。あの時はブレインストーミングで切り抜けていたはず。

さておき登場人物は主人公のみならず皆とてもナイーブ。みんな三十代のはずなのだけれども初恋をひきずっていて感情の起伏も強い。いや、一応ヒロインのほうが一枚上手だとラストで暗示されてはいるけれど、それでも繊細な主人公を受け入れちゃう。

全体的に願望充足的と言うか作者に甘いというか、宇宙人も善意にあふれている優しい世界だ*1

僕は極悪人を描くのは向いていなくて、こういうナイーブな(しばしばとぼけた)若い人間しか書けないのかもしれない。これを欠点とみるか、伸ばしていくべきポイントとみるべきか。

書き直したいポイントはやっぱり初恋の引きずり方で、これは恋愛関係以外の感情でドライブしたほうが良かったのではないかとも思える。どうしても甘ったるくなる。

何であれ自分にしか書けない物、自分の作品でしか味わえない感覚が大事だ。ひけらかし過ぎない、楽しい衒学趣味?

 

■第三者からのコメント

梗概段階だと、ファーストコンタクトよりも恋愛が勝ってしまっているという指摘。また、スケールの大きな返事と、小さな返事が絡み合うのが意外性になっていて、小さい側の留保が開放されて、連鎖して、大きい側の留保が開放される構造も心理的にスリルがあるが、両者のつながりが弱いかも、と。

実作段階では、「枯木伝」では女の子の語りのパートも、いつものような堅苦しさがなくてリーダビリティが高かった。また、ですます調の部分も今までに読んだことのないタイプで新鮮であった。けれども、今回の実作は残念ながらそう印象は受けなかった。物語の内容と文体がミスマッチを起こしていた。こういう話を書くのなら、もっと柔らかい文章で語る必要がある、と。

また、淡々と進めるならもっと叙情的な表現で書くか、「設定」をぶっ飛んだものにした方がいいかも。

さらに、SF的設定は一番よく考えられているが、キャラクター関係で駆動させるにしては、設定にキャラクターが引っ張られ過ぎている(設定説明に引っ張られている)。背景や設定に比して造形が弱い。

 

■まとめ

  • SF的設定はよい。
  • 子どもっぽさ、ナイーブさが出てしまいがち。
  • 青春を引きずりすぎない。
  • 大きい話と小さい話をつなげるときには互いに影響させあうこと*2
  • 優しげな話には、やわらかく抒情的な文体で(文体を工夫しよう!)。
  • 設定をぶっ飛んだものにしてもいい。
  • SFとしてのハードさと文体のやわらかさとの調和。
  • どんな読者を想定している?

 

以上。

*1:「三体」読んだ後だと別の感想が浮かんでくるね。

*2:メインプロットとサブプロットをつなげるときにも大事な考えか。

ゲンロンSF創作講座実作「枯木伝」振り返り

■あらすじ

枯木伝 | 超・SF作家育成サイト

瀬戸内海の実家に帰省した主人公は、従兄から架空の「淡路国風土記」の物語を聞かされる。それは、少年が恋に破れ、仏道に入るまでの説話物語だった。しかしそれは偽書であり、実は従兄からの片思いを綴ったものだと主人公は気づき、居心地の悪さで実家から逃亡する。

 

■自分で読んだ感想

【枠物語外】

この文体、一体どこが評価されたんだろうなあ。確かに変な力が入っていないし、設定を延々と語ることもないのは事実だ。

力を抜いて書いたのが割と評価が良かったのはうれしい。(2点獲得!)ただ、最終実作の方向をああいうメタフィクション的なものにしたきっかけでもあり、間接的な敗因だ。ただ、あそこまでは言い訳がましくない。

読んでいるうちに淡路島に行ったのが楽しかったことを思い出したけれども、これって淡路島の南にある(架空の)島が実家な人の文章じゃないよね。淡路島に縁があるならもうちょっと土地勘があるんじゃなかろうか*1

【枠物語内】

素朴な味わいはわざとなのか実力なのか。かなりひどい目に合っているのに主人公はめげないんだけれども、どうも選択肢を示されてどっちかを選ぶという経験に乏しい。状況に反応するものの、流されている面もある。

あと、設定も甘い。例えば身体の香りに争いを収める力があるというのなら、なぜそもそも女の子が連れ去られるようなことになったのか。それに、そうだとしたらその力が発揮されている場面もあらかじめ必要である。どうも伏線の張り方が貧弱である。

また、身体からその香りが失われるタイミングもかなり恣意的。

以下は全くの余談。「女の子がもぎ、男の子もそれに続きました。」というのは、エヴァが禁断の果実を食べ、アダムがそれに続いたことを意識していたのかも。

 

■第三者からのコメント

梗概段階では:

このままでは説話としての教訓がわからない。書き手にも見えていないのだろう。それと、男の子があまりにもかわいそうだ。また、この物語がオリジナルであるとわかるような棘はなんだろうか。

枠物語という形式を採用する必要はあったのか。枠物語を導入する場合、その内側の物語を導入することで、その外側にも何らかの変化がないと、導入する意味がない。

この場合、枠物語にすることで、どこからが本当の話なのか、曖昧にできる。

関西人にとって身近な場所なのでリアリティの問題がある。

実作段階では:

全然SFじゃないけれど面白い。久しぶりにめんどくさい実家に帰ると伝承を聞かされて、それが全部でっちあげで、愛を訴えられてキモい、みたいな話だよね? その逆転が面白い。作中作もよくできている。ただ、途中まではいいのだけれど、もう少し飛躍させてもいいのかもしれない。話が段々とグロテスクになっていくとか、そのタイミングで種明かしをするとか。全体としてはよくまとまっている。新境地で、リーダビリティが高い。

今までは比較的わかりやすききれいな着地点を書いていたが、今回は不穏な感じがあり、そこが新鮮。変にきれいに作ろうとするよりもいいかもしれない。劇中劇もよくできている。もっと無茶をしてもいいかもしれない。加えて、君のSFでない文章を読んだのも初めてであったので新鮮。非SFにも適性があるのかもしれない。……ただ、どちらの道を選ぶにしても、SFの知識は役に立つだろう。

 

■まとめ

  • リーダビリティは高い。
  • もっと飛躍させてもいいかも。
  • 不穏な雰囲気にしてもいい。
  • 劇中劇は中と外のやり取りが大切*2

たぶんSF濃度が濃いめの作品よりも評判が良かったのは説明が多すぎなかったからだ。とはいえSFなら説明がどうしても必須で、描写とのバランスを工夫しないといけない。

一度ほとんど説明をしない、けれども設定はハードな作品を書いてみるといいのかも。

*1:後述の関西人から見たリアリティ問題。

*2:最終講座で批判される箇所だ!

ゲンロンSF創作講座実作「重力崩壊と私掠船、その船医と強欲な商人」振り返り

妙にアクセス数が多いと思ったら、近々第6期の講座があるのね。

がんばれー。

 

■あらすじ

重力崩壊と私掠船、その船医と強欲な商人 | 超・SF作家育成サイト

 主人公と相棒が中性子星に墜落する。そこで生命体と遭遇するが、主人公たちはこの中性子星が間もなくブラックホールにつぶれてしまうことを知る。生命体と協力して脱出するが、すべては相棒の仕組んだことであった。主人公は激高するが、やむなく彼とともに高跳びする。

 

■自分で読んだ感想

いくつか興味深い要素は見られる。数万年の寿命を持ち数年の旅を長いと感じなくなった人類、中性子過剰の環境で生きる生命、それから連続量しか理解できない(整数の概念を持たない)知的生命体。あるいは互いの境界が曖昧で、自分という他人の概念があるかもわからない磁束でできた生命。これらをもう少し丁寧に扱っていたら、もうちょっと面白いものにできていたはずだ。

ファーストコンタクトの様子をギャグ的に処理してしまったのははっきり言って失敗。全体的にギャグが滑っているし、設定を説明している個所が多すぎる。とぼけた文体は円城塔オブ・ザ・ベースボール」を真似たつもりだった気がするが*1、正直似ても似つかない。というか冒頭エヴァじゃん。

それに、中性子からの脱出を阻んでいた壁の正体についてもいい加減。過去の作品を振り返えるうちに、時間が足りなくてロジックを詰めていない箇所にどんどん気づく。ロジックがいい加減ってのは、例えば壁の正体を設定するにあたり、磁束でできた生命を跳ね返す壁とはどんなものかについて全く考察していないことだ。

やっぱり徹底的にハードな方向性にもっていかないとダメなのかもしれない。でも、それをやったところで「竜の卵」を越えるにはまだまだだ*2

それと、最後はやむなく元の相棒についていくが、これも若干状況に流され気味だ。

 

■第三者からの感想

イーガンのようなハードなアイディアだけれど、地の文で説明をしすぎている。読者が必要としていない情報も多い。説明ではなく、描写で示すべきだ。加えて、キャラクターに魅力があまりない。

これが見せたいんだな、というポイントがなければ、評価しづらい。

手癖と思われる箇所が多い。読者に必要のない情報は、どこに位置させても構わない、つまりブロックとして遊離している。読者を楽しませるのに失敗している。

説明も長い。もっと簡潔でいい。

バックアップ、未来のジェンダーは〇。

 

■まとめ

  • ハードな設定をもっと詰める。
  • ハードな部分をもっと大切に。
  • 論理展開をもっと丁寧に。
  • 説明の台詞は必要な分だけ。
  • 説明ではなく描写。
  • キャラに魅力がいる。

 

■というか

同じ失敗が多いので段々落ち込んできた。

1か月に1本というペースだと、前回の作品を反省し、それを次回に生かすのが難しい。冷却期間がほぼないからだ。

とはいえ、これだけ作品のストックが増えてくると自分の欠点の方向、油断するとやりがちな手癖に気づけるのはいい。

 

以上。

*1:円城氏が実作の担当講師だった。

*2:絶滅間際の知的生命体を救うという点では小川一水「老ヴォールの惑星」にも似ている?

ゲンロンSF創作講座実作「アムネジアの不動点」振り返り

■あらすじ

フィクションとフィクションの間を移動する能力を持つ主人公は追われていた。そこで、彼を助けようとするように見える二人の人物に出会う。一人は芽衣、もう一人は純、殺しあう二人に主人公は翻弄される。

最後に明らかになったのは、主人公は元来フィクションを自動的に生み出す、淳の自己満足のためのシステムの一部であった事実だ。戦いの果てに、主人公は純を倒して自由と自律を手に入れて旅に出る。

 

■自分で読んだ感想

設定が甘い。

円城塔氏のメタフィクション的なものに憧れて書いたようなのだが、なんで本を読むと世界を移動するのかがよくわからない。書物の中の書物、存在しないはずの書物などというイメージをやりたくて設定をしたものと思われる。

また主人公が世界を移動する能力は文章を読むことだけではなく、別世界をイメージすることでも発動すると気づくのが、行き当たりばったりの思いつきみたいだ。もう少し早い段階でこれに気づく伏線を張っておくべき*1

そしてラストで主人公が主体性と創作の喜びに目覚めたかどうかがはっきりしない。身勝手な作者の純と、登場人物に救われてほしい読者の側にいる芽衣の両方から独立した考えを身に着けているとは思えない。これについても、主人公の成長と言うか変化を各場面で少しずつ準備しておかねばらならなかった。

それと主人公は作中で一度だけ奇跡を起こすことができるという設定も、「SAVE THE CAT」からの受け売りで面白くない。

全体的に世界観が散らかっているというか、思いついたもの全部詰め込んでいる感じ*2

ちょっと面白かったのは、数千年後には技術革新が進みすぎていてほとんどのSFの技術が発達しすぎて夢を見る余地がなくなったことか。近過去フィクションの需要を考えるとちょっとだけ興味深い。

 

■第三者からの感想

梗概では次の通り。

「類似した作品が多く、どこを売りにするかを考える必要がある。また、ギミックとドラマが噛み合っていない。特に、ラストのクライマックスと成長のタイミングにずれが見られる。逆境に置かれた中での成長物語と、場面の切り替わりの仕組みに関連性が見られない。」

実作は講座では触れられず。

講座の外では「あからさまにヤバいことが起っているのに、語り手がどこか淡々としているのが面白い」というのと、「人物描写が極端に排除されているのと動作の描写が何故か非常に紋切り型かつ種類が少なく心理描写も少なめなので、その辺がこの物語の弱点になってる気がする。後半はセリフで説明しすぎ。最初がいいだけにもったいない」との感想をいただいた。

 

■まとめ

  • ラストは説明するのではなく、絵で示す。
  • 特に、台詞で説明しすぎない。
  • アクションは紋切り型なのでやめておけ。
  • メタフィクションもけっこうありがちなのかも。
  • 最初と最後で主人公は成長しなければならない。
  • どの場面にも意味・伏線を与える必要あり。
  • 無駄な場面、趣味だけでやっている描写はあってはならない。
  • 思いついたもの全部入れればいいわけじゃない。
  • ラスト近くでの思いつき・気付きには入念な準備がいる。
  • いかに思い付きだけで書いているか思い知らされた。
  • ……それにしても、短編1本に1か月って伏線の張り方の準備や書き直しを考えると時間足りなくないか?

■そうそう

振り返りが終わったら点数だけじゃなくてツイッターでの言及数(ページの右上の数字)を比較してもいいかも。

 

以上。

*1:今にして思えば脚本術にもこんなこと書いてあった。

*2:第1回もそうだ。

ゲンロンSF創作講座実作「ミュルラの子どもたち」振り返り

■あらすじ

ミュルラの子どもたち | 超・SF作家育成サイト

遠い未来の人類の植民した惑星。植物から生まれる人類の王族である姉妹が、意識を持つ植物に恋をする。二人はその植物と愛の行為におぼれる。二人は人類がどうやって繁殖するかを知らされていない。主人公の姉妹はその謎を、主人公に先んじて解く。姉妹は意識を失い、新たな集落の命の源となる。主人公は出し抜かれたことと姉妹の変容にショックを受けるが、姉妹の繁殖を補佐する役割を受け入れる。

 

■設定

あらすじだけではわかりづらいので補足する。

遠い未来に人類が植民した惑星が舞台。この惑星の人類は男性と女性の区別がない*1。また、この世界の人類を生み出した「母なる」存在は、樹木の姿を取る。この「母なる」樹木(あるいは一本の樹木が大きいので「母なる」森)の下で人類は暮らす。その果実を食べ、枝の下で雨風をしのぐ。ごくまれにその果実から次の世代の森を生み出す種が見つかることがある。

人類はある種の社会性昆虫のような暮らしをしており、その種から生えた新しい樹木と配偶子を交換して繁殖できるのは王族のみ。王族は必ず二人生まれ、特別な果実で育てられる*2。片方が樹木と融合して配偶子を交換し、もう片方はその融合した新しい樹木の守護者となる。

なお、この人類はこの森を広げることを目標としている。ある種のテラフォーミングである。ヒトが自らの身体を使ってテラフォーミングをするというネタはあまり見ない気がする。

なお、ミュルラとはギリシア神話で実の父に恋をして子を授かり、罪の重さから樹木に変じた女性である。ちなみにその息子がアドニスだ。

 

■自分で読んだ感想

一つの世界観を構成することには成功している一方で、主人公が謎を解くプロセスがぎこちないし、設定が複雑な世界観を一読しただけで分かるだろうか。これは今まで通読してきて感じている課題だ。自分は何かを説明するのは得意だが、それを読んで面白い小説の形にするのはまだうまくない。文章のスタイルそのものは褒められていた記憶がある。

それに、王族には繁殖の方法が知らされず、謎を解いたほうが配偶子として機能するというのも、振り返ってみれば理屈がよくわからない。

性別のない世界を設定した理由はいろいろあるのだけれども、性差のある世界に対しての異議申し立てと言うか違和感というか不満と言うか、そんなものを抱えていたからなのだろう。とはいえ、そのきっかけは単純に自分がモテないからに過ぎない気がしていて、それはちょっと浅いのではないかと思わなくもない*3

 

■第三者からの感想

梗概段階では次の通り。

「世界観が面白く、独自性がある。話にも力がある。ただし、人間が樹木から生まれ育つことに何らかの意味づけがほしい。それと、王位を得ることの対価として何を失うのか、が描かれていない。また、王位の生態学的な意味がよくわからない。主人公は何かを育てることでどう変わって行くか、何が大事か。二つのものの間で迷うようにしてほしい。厳しい選択を求められたほうが話としては面白い。梗概はあくまでもプレゼンテーションなので、何が起こったかを具体的に書く必要がある。それは、実作の段階では明示されていなくても構わない。あくまでもプレゼンだからだ。」

ちなみに、トキオ・アマサワ氏からいただいた資料には「皆が木の股から生まれる世界の中で、どうやって王族が誰なのかがわかるのか」「双子の一人が子育てをするのはいいが、もう一人が樹木と一体化することの意味は何か」

実作段階ではほとんど言及がなく「結構面白かった。」とだけ。

一方で繁殖の描写が苦手という意見も。

 

■まとめ

  • 謎解き、情報を得るタイミングに注意*4
  • 別の個所で読んだが、設定は現実世界と一か所違う程度でいい*5
  • 設定を詰めたつもりでも不合理な個所が残りがち。
  • それにしても説明が多い。説明だけで気持ちよくなってはいけない。
  • 登場人物は最初と最後で何が変わるか。
  • 二つの間で迷い、厳しい選択を迫られるほうが面白い。

 

以上。

*1:作中では男性と女性がどうしても理解しあえないために、性別を捨て去ったことが述べられている。どうも僕は悲観主義的で、他者は理解不可能なので住み分けるか身体や脳を改造するしかない、という設定を使いがち。

*2:ロイヤルゼリーみたいなもの。

*3:そこまで卑下しなくてもいいかもしれない。要するに自分はいろんな身体的・社会的制約から自由になりたいのだ。と書けばもっともらしい。

*4:これ、主人公が僕らとは違う世界の人間だから、彼らの常識をこちらに説明するパートが必要で、そうでないと彼らの常識に反することに出会ったときの驚きが表現できない。

*5:短編だとこのくらいか?